asin:4309018769 島尾敏雄は相馬焼の湯呑みを愛用していたという。私の祖父も、あの大きな二重の作りの湯呑みを愛用していたことを思い出した。幼かった私はその側面に穿たれた穴に得体の知れぬ怖さを覚えた。 おとうさんの故郷は福島県相馬郡小高町で、江戸川区小岩の家には、濃い緑色と下半分が茶色の相馬焼きの湯呑みや、三年味噌だとかいう塩辛い黒い味噌、たくさんの種類の豆餅や緑色の草餅などがあって、北国の田舎の青カビのような、懐かしいともそうとも言えない、肌にへばりつくような香りを振りまいていました。 そういえば、四人が小岩を遠く離れて暮らすことになった昭和三十年代の奄美大島では、納豆は勿論、おとうさんの好きな黒い三年味噌も色も塩分も濃い味噌汁も、煎餅やそばや寿司さえ、島のどこを捜しても、影も形もありませんでした。 器の周りに空気を閉じ込めて、中に注がれたお茶が冷めないようにという工夫なのか、