長崎県の真ん中に、ぽっかりと空いた穴のように広がる大村湾。そのほとりに、JR大村線の千綿駅(ちわたえき、東彼杵町〈ひがしそのぎちょう〉)がある。湖のような凪(なぎ)の海を望むホームに、趣のある木造駅舎。そして駅に親しみをもつ地元の人々。足を運ぶたび、ただ美しいだけではない、心温まる情景に出会えた。 海が迫るホーム、細部までレトロな駅舎 千綿駅を最初に訪れたのは、2016年2月。諫早(いさはや)方面から佐世保行きの列車に乗り込み、北を目指す。長崎空港にも近い大村の市街地を抜けると、左側の車窓が一面の海に変わった。大村湾だ。湾口わずか330メートルしかない閉鎖的な内海で、波も穏やか。そのおかげで線路が海面のすぐ近くを通っており、車内にいると、まるで海の上を走っているような不思議な感覚に包まれる。 そのまま右へ左へ、海岸線をなぞること5分。列車は海に寄り添ったまま、千綿駅にゆっくりと滑り込んだ。