しかしながら、そのようなアーレントの考えの代償は大きかった。多くのユダヤ人の批判を招いただけではない。世界中から脅迫状が届き、アパートメントの住民からも罵倒の言葉が届く。 いつの時代も、その人の議論をきちんと理解することなしに、レッテルを貼付け、罵倒の言葉を投げつける人がいる。しかしながら、アーレントはそのような言葉の暴力に対し毅然と接し、自分を失うことはない。この映画の全編を通じ、傷つきながらも、けっして怒ることなく、悲しみを胸に、それでも笑顔で友人に接するアーレントが描かれる。 とはいえ、そのようなアーレントにとっても、幼少時からの親友であり、現在イスラエルに暮らすクルトや、ハイデガー門下の古い友人であるハンス・ヨナスによる最終的な拒絶はつらい。「民族」ではなく、「友人」を選んだアーレントだけに、そのつらさは倍増する。それでもアーレントは、自らの「思考」に従い、自分の信念に従う。その代