箱庭で完成させた精緻な世界ウェス・アンダーソンの作品は、近年になり、とても入り組んだ物語の構造を持つ、きわめて人工的でフィクショナルなものに変化しています。箱庭で完成させた精緻なミニチュアの世界のような、他の映画監督には真似できないイメージを提示してきているのです。例を挙げれば、実際には存在しない国「ズブロフカ共和国」にある架空のホテルを舞台にした『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)。人形を使ったストップモーションアニメで描かれる犬たちの物語『犬ヶ島』(2018)。また、フランスにある架空の村に編集部を持つ雑誌「フレンチ・ディスパッチ」がテーマとなる『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2022)では、雑誌に掲載されたエピソードが映像で再現される、という入り組んだ物語形式が取られています。そのどれもが、非現実的なまでに人工的で、シンメトリーであり