バブル崩壊から16年がたった。日本経済は「失われた15年」を脱却し、史上最長の景気拡大が続いていることになっているが、生活が改善された実感はない。安倍政権の「上げ潮路線」では、5年以内に名目成長率を3%台にすることが掲げられているが、GDPを拡大すればこの状況は変わるのだろうか。私は「物より心のほうが大事だ」といった議論をしているのではない。狭義の金銭的な指標だけを考えても、齊藤誠『成長信仰の桎梏』が指摘するように、GDPは政策目標ではありえないのだ。 ふつう最適成長理論などで設定される目的関数は、将来にわたる消費の積分値の最大化であって「総生産」の最大化ではない。GDPは消費と投資からなり、投資はそれによる将来の消費の割引現在価値に等しいと考えられているが、それが現在の消費と等価になる(GDPが現在と将来にわたる消費の代理変数になる)のは、経済が恒常成長経路の上にある場合に限られる。通
斎藤誠『市場と政策の経済学』を読む (経済セミナー連載、2001年4月〜) 今井亮一 2002/02/06 斎藤誠(一橋大学教授)の「経セミ」連載を、今、読んでいる。たいへん勉強になる。かなり深いことを、簡単なモデルで巧妙に説明してしまうのに驚かされただけでない。斎藤さんは、論理を積み重ねた結果ようやく辿り着いた結論を、その瞬間に、いとも簡単に相対化してしまうのだ。読み進むうちに読者は、これぞ究極の正しい理論、と飛びつきたくなるような考え方に何回も出会うのだが、斎藤さんは、そのたびにその期待を裏切る。たゆまない思考の歩みは、安易な結論を拒絶するのだ。このような、一見、優柔不断とも思える筆の進め方が、何とも奥床しく、私は完全に魅せられてしまった。私が特に注目したことについて、ここに書き留めておく。 「金融政策の理論と実際」(7月) 名目金利がゼロの時、名目貨幣数量と物価水準の間の一義的な関係
齊藤 誠(さいとう・まこと) 一橋大学大学院経済学研究科教授1960年生まれ。83年京都大学経済学部卒業。92年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了、Ph.D.取得。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部などを経て、2001年4月から現職。2007年に日本経済学会・石川賞、2010年に全国銀行学術研究振興財団・財団賞受賞。主な著書に『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、日経・経済図書文化賞)、『資産価格とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、毎日新聞社エコノミスト賞)、『競争の作法』(ちくま新書)。(写真:陶山 勉、以下同) 齊藤 「失われた10年」も含め、これまでの日本のマクロ経済政策は、金融と財政面から呼び水を作って、需給ギャップを埋めていくという発想でした。需要をどう盛り立てるという経済政策だったわけです。 しかし、今回のように生産設備、社会資本、人的資本、農林
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