上原善広「被差別の食卓」(新潮新書)がとても良かった。冒頭、幼い頃「あぶらかす」が好きだったと書き始めている。母の料理だった。そんなあぶらかすが一般的な食材でないと知ったのが中学生の頃だった。それは被差別部落の食材だった。著者は1973年、大阪市南部にある更池(さらいけ)という被差別部落に生まれたと書いている。そこでは現在でも自分たちの地区のことを「むら」と呼んでいる。中上健次の「路地」と同じだ。 上原は「しかし」と書く、「成長するにしたがって、わたしはそのような環境に育ったことを、徐々に誇りに思うようになったのであった」。本書は全編がこの姿勢で書かれている。みごとなものだ。そして上原は、世界各地の被差別の地区を訪ね、その地区の料理を味わうという「取材」を開始する。 本書に紹介されているのは、アメリカ南部の黒人ハーレム、ブラジルの黒人奴隷の末裔がひっそり住む地区、ブルガリアとイラクのロマ(