[読書] 斉藤慶典『デリダ − なぜ「脱-構築」は正義なのか』(NHK出版) 斉藤氏の新著が出た。デリダについては、すでに高橋哲哉氏の優れた解説書があるが(『デリダ−脱構築』講談社 1998)、本書の特徴は、「脱構築」と正義との一体性に焦点を絞っている点にある。やや重い文体ながら、粘り強い思索によってジリジリと対象に肉薄していく斉藤氏ならではの好著といえよう。プラトン以来の「同一性の形而上学」を批判するデリダの「脱構築」は、際限のない相対主義に導くものだと批判されることがある。だが斉藤氏によれば、そうではない。斉藤氏は、デリダの初期の「記号」「痕跡」「エクリチュール」といった概念にこだわることによって、それが後期デリダの正義論を開花させたことを明らかにする。 デリダによれば、世界は「表現されたもの」「現象」「痕跡」であり、広義の「記号」あるいは「テクスト」である。世界がテクストであるだけな