「所得上限を設けて再分配。“大谷選手も1億円しかもらえない”でいいと思う」 斎藤幸平氏が提唱する“脱成長”3つのポイント
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コロナ禍でかつてなく「格差」の問題がクローズアップされている。テレワークできる人、できない人。高給取りのブルシット・ワーカーと社会を支えるエッセンシャル・ワーカー。健康に不安をもつ人や高齢者と、感染を気にしない若年層。ワクチンが潤沢に行き渡る国とそうでない国――。 分断と対立を生み出す構造の奥には、何があるのか。宮台真司、白井聡、斎藤幸平の三氏が徹底討議する。 資本主義が牙を剥いた 斎藤 この1月に国際慈善団体のオックスファムが発表した調査は衝撃的でした。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツやテスラ創業者のイーロン・マスクら世界の富豪トップ10人が、コロナ禍のこの1年で、保有株の価格上昇などによって計56兆6000億円もの利益を得た。これは、全人類76億人に必要なコロナワクチンをすべて賄える金額だそうです。 白井 そのオックスファムの別の調査によれば、'16年時点では「世界のトップ62人の富
さいとう・こうへい/専門は経済思想、社会思想。新書大賞の『人新世の「資本論」』(集英社新書)は32万部のベストセラー(撮影・露木聡子氏、斎藤さん提供) コロナ下で強行開催された東京五輪が8月8日、最終日を迎えた。コロナ対策だけでなく、数々の問題が噴出した五輪だった。失敗の根本原因は何か。経済思想家で大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平氏が本誌に寄稿した。 【写真】まるで「居酒屋のユニホーム」?酷評された東京五輪表彰式の衣装はこちら * * * コロナの感染拡大を心配する多くの人々が反対の声をあげていたにもかかわらず、強行開催された東京五輪。その危惧どおり東京の医療は崩壊し、「今回の五輪はコロナのせいで失敗した」という認識が広がっている。 だが、五輪の失敗はコロナのせいだろうか。そうした側面もあるとはいえ、失敗の根本原因は別のところにある。問題の本質は、資本主義がスポーツを金儲
「地図はすぐに古くなる。でも、真北を常に指すコンパスさえあれば、どんな変化にも惑わされず、自分の選択に迷うこともない」 独立研究家の山口周さんはそう語ります。山口さんとさまざまな分野の識者が対話。自分の“思考のコンパス”を手に入れ、迷ったときに一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。 第3回目の対談相手は、経済思想史の研究者で大阪市立大学准教授の斎藤幸平さん。深刻な社会的格差や環境破壊を生む原因と分かっていながら、経済成長を求め続けてしまう。行き詰まる資本主義に対し、マルクスの新解釈によって解決策を論じた著作『人新世の「資本論」 』が、8万部を超えるベストセラーとなっています。 斎藤さんが提唱する策とは? ——斎藤さんの著書『人新世の「資本論」 』の「人新世」とは、現代を表す時代区分の一つで、「人類の時代および人類が地球の生態系など自然環境に大きく影響を及ぼす時代」を意味しています。まさ
気候変動は肌感覚で捉えられ、論じられ、対応を迫られる問題になっている。日本においても「50年に一度の~」「観測史上最も~」と形容される災害が頻発し、状況の悪化を感じずにはいられない。私たちはライフスタイルを変えなければならない、という声も聞かれる。そんな中、「資本主義が地球を壊している」「資本主義と決別を」と主張し、斬新な提案を示す思想家がいる。国際的なマルクス研究の新鋭・斎藤幸平氏だ。脱成長を目指しても、豊かな経済システムは可能だと彼は断言する。そんなシステムが本当にあるのか、実現できるのか、そしてそれが私たちの生活や労働にどう関わるのか、お話を伺った。(取材・文/正木伸城) SDGsは「大衆のアヘン」である ――いま、気候変動が切迫した問題として捉えられ、SDGs(=持続可能な開発目標)が注目を集めています。日本でも遅まきながら話題になってきました。そこに斎藤幸平さんが、かのカール・マ
東大大学院の斎藤幸平准教授が3日放送のTBS「news23」(毎週月~木曜後11・00、金曜後11・58)に出演し、故ジャニー喜多川元社長による性加害を受け、ジャニーズ事務所が2日に開いた会見についてコメントした。 【写真】「ジャニーズ」名称完全消滅…事務所の新体制イメージ図 会見では、質疑応答で指名されなかった一部記者がマイクなしで質問したり、ヤジが飛ぶなど荒れ模様となった。これを見たジャニーズJr.の育成などを手掛けるジャニーズアイランドの社長で、元V6の井ノ原快彦は「全国に生放送で伝わっておりまして、小さな子供たち、自分にも子供がいます。ルールを守っていく大人たちの姿をこの会見では見せていきたい。どうかどうか、落ち着いてお願いします」と静かな口調で呼びかけ。その直後、一部報道陣から拍手が起こる異例の事態となった。 斎藤氏は「気になったのは、一部の記者の方が繰り返し質問をしてそれに対し
哲学者と子どもたちによる資本主義の改革は実現可能か? マルクス・ガブリエル『倫理資本主義の時代』書評 by 斎藤幸平 世界的哲学者、マルクス・ガブリエルによる初の「日本書き下ろし」となる著作、『倫理資本主義の時代』(斎藤幸平[監修]土方奈美[訳]、ハヤカワ新書)。刊行直後から各書店でベストセラーとなり、話題を呼んでいます。 「エコ・ソーシャル・リベラリズム」や「最高哲学責任者(CPO)」、「新実在論」などのキーワードが頻出する本書の読みどころは、いったいどこにあるのか? 現代社会が抱える問題に対して、本書はどのような回答を提示しているのか? 本記事では、本書の翻訳監修をつとめた斎藤幸平(東京大学大学院総合文化研究科准教授)さんによる書評を公開します。 マルクス・ガブリエルが掲げる「倫理資本主義」と、斎藤氏が標榜する「脱成長コミュニズム」は、どちらがより今の世界に求められているのか。本書が刊
リモート読書会は、斎藤幸平『人新世の「資本論」』だった。 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 発売日: 2020/10/16 メディア: Kindle版 その中身は、 気候変動が人の生活に与える影響はこのままいくと限界になる。 気候変動はSDGsやグリーン・ニューディールのような資本主義を修正する立場では対応できない。 無限の価値増殖を求める資本主義体制の変革(社会主義・コミュニズム)なしには気候変動は止められない。 しかしコミュニズムであっても経済成長を前提とする従来のものではダメで、脱成長のコミュニズムでなければならない。 脱成長のコミュニズムの中身は、国家主義でなく、生産と労働を変革し、生産手段を「コモン」として管理する民主主義である。 その動きは世界のいたるところではじまっている。 マルクスは『資本論』執筆後に、生産力至上主義・西欧中心主義・進歩史観を脱し、脱成長の
貧困や紛争、気候変動、教育の不平等にジェンダー差別など、世界を取り巻く問題は複雑化している。これらの問題を解決して、地球上の“誰ひとりも取り残さない”ためにできることをしよう──そんな大義を掲げて地球規模で大きなうねりとなっているのがSDGs(持続可能な開発目標)だ。しかしその行動は、果たして本当に世界のためになっているのだろうか。いま注目を集める気鋭の経済思想家・斎藤幸平さんが「SDGsの誤謬」を見抜く。【全3回の第1回】 【表】SDGsが掲げる17の目標 「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「ジェンダー平等を実現しよう」「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「気候変動に具体的な対策を」──これらは17項目からなるSDGsの目標の一部だ。2015年の国連サミットで採択され、経済を持続可能な形で発展させてよりよい世界を実現することを目指している。 SDGsの前身と
マルクスが見てきた「苦しむ若年労働者」 労働力は、人間が持っている能力で、本来は社会の「富」の一つです。労働力という富を使って、本当なら生活をもっと豊かにしたり、夢を実現したり、社会のために役立てたり、働く人に幸福感や充実感をもたらしてくれるような活かし方ができるはずです。 ところが資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。資本家にとって、自分で購入した労働力商品を使うにあたり、労働者の生活の質や夢、やりがいに配慮することは関心事ではありません。彼らが執心しているのは、労働が生み出す価値の量。それを最大化するために労働を支配していくのです。 こうして、生きるために働いていたはずが、働くために生きているかのように本末が転倒していきます。労働力という富が商品に閉じ込められてしまうことで、多くの労働者にとっては、人間が持つ能力の発展が阻害され、使い潰されてしまうのです。 「
自然災害、戦争、食料や天然資源の不足、インフレといった複数のリスクが絡み合い、予測できない結果を引き起こす「複合危機(ポリクライシス)」に今、世界が直面している。危機はなぜ到来したのか。私たちは何ができるのか。「脱成長」をキーワードに複合危機への処方箋を探る東京大の斎藤幸平准教授に聞いた。 複合危機はトップダウン型政治を招く ――世界の平均気温は2023年、観測史上最も高くなり、「地球沸騰化」の時代が到来したとも言われています。 ◆欧州連合(EU)の気象情報機関によると、産業革命前の平均から1・48度上昇しました。気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」で1・5度以内に抑えるとした上昇幅を超えようとしています。あっという間にここまで来てしまった。 2万人とも言われる死者が出たリビアの洪水や、カナダの山火事など異常気象も頻発しました。こうした異常気象は水不足、食料危機といった新たな問題を引き起こ
「Z世代」とは何か。 この世代はどんな社会を経験しているのか、どんな特徴があるのか。そもそも特徴をひとくくりに語っていいものなのか……。 こうした問いと格闘した『世界と私のA to Z』。 本書の著者であるZ世代当事者の竹田ダニエル氏と、経済思想史を専門とする東京大学准教授の斎藤幸平氏が、Z世代について語った(本記事は、『群像』1月号掲載の記事を編集したものです)。 シリコンバレーから見える景色 斎藤 『世界と私のA to Z』を大変面白く読みました。ただ手に取られた方は最初、著者はどういう方なんだろうと疑問に感じると思うんです。今日も写真はNGですが、25歳というのは本当か、普段はどういう活動をしているのか、もしかしたら著名なおっさんの裏アカなんじゃないのかとか(笑)。 竹田 アメリカ在住の25歳ではなく、日本に住んでいるおじさんなんじゃないの? とはよく言われます(笑)。顔を出していな
晩期マルクスの思想の新解釈から、気候変動などの環境危機を脱するヒントを探り、30万部のベストセラーとなった『人新世の「資本論」』(集英社)の著者の斎藤幸平さん。そして、不安定な時代を生き抜くためのブックガイドである『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)を上梓した堀内勉さん。「知の水先案内人」であるお二人に、先行きの見えない時代を生き延びるための教養・ビジネス書について語っていただいた。(全2回の1回目。後編を読む) ◆◆◆ 斎藤幸平(以下、斎藤) 堀内さんは、日本興業銀行でMOF担(旧大蔵省担当)をなさり、ゴールドマン・サックス証券に転職、森ビルのCFO(最高財務責任者)も務めたというご経歴ですよね。まさに資本主義の最前線でキャリアを積まれたわけです。一方、私は『人新世の「資本論」』で痛烈に資本主義を批判し、脱成長まで提案している。そんな
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週プレNEWS TOPニュース社会<コモン>の解体で僕らを苦しめる「資本主義」から降りる方法とは?【対談】斎藤幸平×いとうせいこう<前編> 斎藤幸平氏(左)といとうせいこう氏(右) あらゆる人が必要とする水や電気、自然などの<コモン>を囲い込み、地球環境を壊してまで利潤を追求する「資本主義」から降りたほうが、僕らは豊かになれるのではないか? 16万部のベストセラーとなっている近著「人新世の『資本論』」(集英社新書)の著者であり大阪市立大学大学院准教授の斎藤幸平氏が、本著で提言するその考え方と方法に関して、メディアを横断して活躍するクリエイター・いとうせいこう氏と語り合った"未来を取り戻す"ためのポジティブな方法とは? その対談記事の前編を掲載する。 ■SDGsは大衆のアヘンであるいとう 斎藤君の新著『人新世の「資本論」』は、冒頭から読者に厳しい現実を突きつけています。気候変動をめぐって各国
「クレイジーなアイデア」 自分がおかしいやつだと思われていることを、斎藤幸平は自覚している。それこそが大事なポイントなのではないか、と最近ニューヨークを訪れたこの日本人哲学者は私に語ってくれた。 「たぶん、ショックを受ける人も多いでしょうね」と彼は言う。「このクレイジーなやつは何を言っているんだ? って」 そのクレイジーなアイデアというのが、「脱成長コミュニズム」だ。それぞれ単体でも賛否両論ある概念を、二つもくっつけているのだ。 経済の成り行きと炭素排出量は常に相関関係にあり、したがって気候変動への最善の対策とは、富裕国における消費を縮小させ、エネルギー需要を生み出しGDPを拡大させる「原料処理量」を削減することだと、脱成長理論は主張する。 脱成長ムーブメントは近年、とりわけヨーロッパや学術団体において勢いを増してきた。その理論には劇的な含意があり、贅沢な近代的生活を維持するためのカーボン
国境を越えて成長を続けるGAFA(ガーファ)。膨大な個人情報を元手に、世界中で無料サービスを提供し、国家と肩を並べる存在感を示しています。他方、膨大な利益に見合う十分な税金を払っていないとの批判も絶えません。経済思想家の斎藤幸平さんは、世界は低成長が続く「ゾンビ資本主義」に陥っていると指摘し、GAFAはその象徴的な存在だと説きます。「情報」がカネになるデータ経済の時代を生き抜くための思想を聞きました。 1987年生まれ、大阪市立大学准教授。専門は経済思想、社会思想。著書に「人新世の『資本論』」(集英社新書)など。同書が30万部超のベストセラーに。 ――主要20カ国・地域の財務相・中央銀行総裁会議は7月、GAFAを含めた巨大IT企業の課税逃れを防ぐため、工場などの拠点がなくても課税できるようにする「デジタル課税」の導入で大筋合意しました。 「拠点のある場所にかかわらず、国別の売上高に応じて徴
「新書大賞2021」の第1位に輝いた『人新世の資本論』の著者である斎藤幸平さん。NHKの番組「100de名著」で『資本論』の解説を担当されるなど、新進気鋭のマルクス研究者として大活躍されています。そんな斎藤さんに「人生を変えた本」を伺いました。 学生時代を彩った数々の名著 アメリカ同時多発テロやイラク戦争など、2000年代の初頭はグローバル化の矛盾が次々と噴出した時代でした。高校生だった私も憤りを感じ、問題解決のために研究者になりたいと考えるようになりました。 そんなときに出会ったのが、およそ100年前に書かれた『武士道』(新渡戸稲造著)です。欧米諸国と積極的な外交をするようになった明治期、新渡戸は日本人の道徳的な核心である「武士道」を欧米に知らしめるために、英語でこの本を執筆しました。 本の内容そのものよりも、そうした彼のスケールの大きな生き方に心がゆさぶられたのをよく覚えています。私自
気候危機に対する新たな視点を、少なくとも日本に住むいくばくかの人たちに受け取ってもらえれば──カール・マルクスと環境危機、そして脱成長(デ・グロース)経済への提言を扱った原稿を提出したとき、研究者の斎藤幸平はそう願っていた。 それから3年が経ち、著書『人新世の「資本論」』は50万冊以上を売り上げ、36歳の俊英はいまやマルクス主義の名士とも呼ぶべき存在となった。 東京の研究室からズームで取材に応じてくれた斎藤は、「これは大きな驚きでした」と語る。「マルクスと共産主義の話なんか、誰も興味ないだろうと思っていましたから」 自分は最初から「脱成長コミュニスト」であったわけではないと語る斎藤だが、つい最近、前作よりも学術的な著書『人新世のマルクス:脱成長のコミュニズムへの道』(未邦訳)を書き上げた。同書は脱成長コミュニズムを「新たな生き方」として提示する議論のうえに成り立っている。
東京大学大学院准教授でマルキシストの斎藤幸平氏が21日、TBS系「サンデー・ジャポン」(日曜、前9・54)にゲスト出演。ダウンタウン・松本人志が「週刊文春」の報道を受けて裁判に注力するため活動休止している問題に触れ、「松本さん個人のスキャンダルにとどめてしまってはいけない」と主張した。 斎藤氏は一連の問題について意見を求められ、「やっぱり、松本さん個人のスキャンダルにとどめてしまってはいけない。これはもっと構造的な問題だと思うんですね」と発言。「『ホモソーシャル』っていう社会学の概念があるんですけど、要するに『男同士のつながり合いのための欲望』っていう意味なんです」と、男性社会の構造に根付いた問題意識を示した。 さらに「今回タチが悪いのは、後輩の芸人の人たちを使って、共同のちょっと“悪い秘密”みたいなものを使って、自分たちのつながり合いを強めていくっていう、しかも、そのために女性を利用して
東京大学大学院の斎藤幸平准教授による『人新世の「資本論」』は、コロナ禍で若者たちに響くメッセージを発信し、50万部を突破するベストセラーとなった。本書は2023年に英訳が刊行予定だ。それに先立ち、英紙「ガーディアン」がインタビューを行った。 ある日本人研究者によるマルクス主義と環境問題についての著書が、驚くほどのベストセラーとなっている。彼によれば、世界が資本主義に「緊急ブレーキ」をかけ、「新たな生き方」を見つけ出さない限り、気候危機は制御できないほど悪化していくのだという。 東京大学大学院准教授、斎藤幸平のメッセージはシンプルだ。それは、無限の利益を求める資本主義が地球を破壊しており、「脱成長」により社会の生産スピードを緩め、富を共有することだけが、そのダメージを修復できるというものである。 現実的に言えば、それはファストファッションなど、使い捨て可能な商品の大量生産・大量消費の終焉を意
コロナ禍で自粛生活、円安進行で物価高、高齢化に伴う医療費負担の増大……。多くの人が「仕方がない」と受け入れてきた閉塞感は、なぜ解消できないのか? 同調圧力に屈することなく、堂々と「NO」を突きつける気鋭の論客たちが日本の忖度社会を打破する処方せんを提示する。 ’21年に岸田内閣が掲げた「新しい資本主義」。小泉政権より続いてきた新自由主義から転換し「成長と分配の好循環」を目指した政策として注目された。しかし’22年、国民はその恩恵を受けるどころか物価高と円安に喘ぎながら、それでも新しい資本主義の奴隷でNO!と言わない。45万部超のベストセラー『人新世の資本論』で脱成長コミュニズムを提唱し、経済成長に依存しない社会の実現を訴えた経済思想家の斎藤幸平氏は「この政策の可能性は失われた」と語る。 「岸田首相が、構造改革と規制緩和による行きすぎた成長路線と決別して、『成長と分配』によって格差を是正しよ
「気候変動対策が成功するかは、この戦争をどうやって終わらせるかにかかっている」。ロシアによるウクライナ侵攻を「気候戦争」と指摘するのが、斎藤幸平・東京大学准教授(35)だ。「気候」と「戦争」が、一体どうつながっているのか。「人新世の『資本論』」などの著書で知られる気鋭の経済思想家が、ウクライナ侵攻を読み解いた。【聞き手・野口麗子】 インフレで庶民の不満増幅 ――ロシアのウクライナ侵攻によって、気候変動対策にどのような影響が出ているのでしょうか。 ◆言うまでもなく、世界中の関心は「将来の危機であるような気がする」気候変動よりも、目の前の戦況に集まっています。戦争の結果のインフレ、とりわけ食料価格とエネルギー価格の高騰が私たちの生活に重くのしかかる結果、物価の安定を望む声が強くなっているのも当然です。 問題は、気候変動が「将来の危機」ではなく、今すぐ対処しなくてはならない危機だということです。
文:篠原諄也 写真:斉藤順子 斎藤幸平(さいとう・こうへい)経済思想家 1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。 Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』/堀之内出版)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。 近著『人新世の「資本論」』(集英社新書)は6万部を超えるベストセラーに。 気候変動を日本で論じる必要性を感じた ――人新世とはどういう時代でしょう? まだあまり一般的には使われていないので、難しそうなイメージを抱いてしまうかもしれません。地質学の概念なのですが、言わんとすることは単純です。人類の経済活動の
気づいていますか? 現在の格差が「世界恐慌なみ」だということに 【特別鼎談】宮台真司×白井聡×斎藤幸平 '70年代までの日本は、ホワイトカラーかブルーカラーか、都会の人か田舎の人かが一目見れば分かり、連帯しやすい状況でした。今は所得の低い人も金持ちも同じようにスマホやパソコンをいじる。誰が自分と似た境遇か分からないから、生活が苦しくても弱みを隠し、「人並み」を装います。地域と家族が劣化し、弱みを見せられる仲間を持たない若者も増えました。 だから不安が消えない。とりわけ以前より没落し、将来が見通せない人は、不安の埋め合わせに他人を叩き、政治家などの権威に一体化します。「右」に見えても、それは価値観ではなく心の病なのです。 医療もワクチンも「商品」でいいのか 斎藤 ウイルスとの戦いには一国だけの「勝利」などありませんから、そうした見方は本質を見誤っている。重要なのはコロナを機に、すべての人にと
マルクス新解釈、若き思想家 インタビューに答える「人新世の『資本論』」著者の斎藤幸平さん=大阪市住吉区 経済書「人新世の『資本論』」が、異例の売れ行きを見せている。出版から半年余りで25万部を突破し、新書大賞(中央公論新社主催)も受賞した。執筆したのは34歳のマルクス研究者、斎藤幸平・大阪市立大准教授。「気候危機や格差社会の根本原因は、資本主義にある」と指摘し、「コモン(共有財)を再生して資本主義に緊急ブレーキをかけ、脱成長を実現する必要がある」と説く。気鋭の経済思想家を取材した。(時事通信大阪支社 山中貴裕) ―本では経済成長が至上命題の資本主義と、二酸化炭素の排出ゼロを目指す脱炭素化は相いれないと指摘しています。 資本主義は人間や自然を徹底的に利用して、利潤を追求します。たとえ回復不可能なほど環境が破壊されても、資本主義は自らブレーキを踏むことはありません。その結果、人類の生存基盤であ
前編では、「サステナブル」や「環境にやさしい」といった物語がマーケティング的に機能し、新たな消費を生み、結局は自然が破壊され続けていること、また、実質的な生産に比べて生産の役に立たない「ブルシット・ジョブ(=クソくだらない仕事)」に多大な資源とエネルギーが割かれていることを確認した。私たちは、生存に不可欠な本来の生産活動からかけ離れた「不必要な」生産、生産、生産に駆り立てられ、疲弊している。生産性を高めるために業務効率化が言われるが、それで仕事がラクになったと実感する人も少ない。事態はどうなっているのか。経済思想家・斎藤幸平氏に引き続きお話を伺った。(取材・文/正木伸城) 「効率化」信仰は労働者を幸せにしない ――いま日本で声高に叫ばれている「生産性向上」「業務効率化」は正直、労働者の幸せに結びついていない感じがします。効率化でコストカットが実現しても、生まれた余剰は設備投資などに使われて
気候変動をはじめとする地球規模の環境問題が深刻だ。グローバルな資本主義はあらゆる資源を奪い、新型コロナウイルス禍のなかで経済格差はますます広がっている。危機の時代に私たちは未来をどう描けばいいのか。資本主義と決別した脱成長を唱える大阪市立大の斎藤幸平准教授(34)に聞いた。【聞き手・清水有香】 コロナ禍は転換点 日本に欠ける視点 ――環境問題に対するこれまでの国際的な取り組みをどう評価しますか。 「環境問題は人類共通の課題」と宣言した国連人間環境会議(ストックホルム会議)から今年で50年。1972年に世界的なシンクタンク「ローマ・クラブ」が報告書「成長の限界」を出すなど、当時すでに環境問題や資源の枯渇が深刻化していましたが、この会議ではインドやブラジルといった途上国を含め、資本主義路線での近代化や経済成長のあり方を根本的に問い直せませんでした。
さいとう・こうへい/専門は経済思想、社会思想。新書大賞の『人新世の「資本論」』(集英社新書)は45万部のベストセラー(撮影・露木聡子氏、斎藤さん提供) 経済思想家で大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平氏が、気候戦争としてロシアのウクライナ侵略を読みとく。 * * * 北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大から、ウクライナ東部の領土問題、プーチン大統領のロシア帝国復活という野望にいたるまで、ロシアによる予想外の侵攻をめぐって、様々な原因がメディアで取り沙汰されている。当然、今回の戦争は単一の理由で起きたことではなく、複合的な原因や事情が折り重なっている。 ただ、そのなかで、気候変動にからむ事情が、日本のメディアでは見落とされがちではないだろうか。気候変動問題が解説に登場しても、それは間接的なわき役としてだ。例えば、ロシアからの天然ガス輸入にドイツが大きく依存していることは、しば
夜回りでベンチの上に横になっていた男性に声をかける、野宿者ネットワーク代表の生田武志さん(左)と斎藤幸平さん=大阪市浪速区で、清水有香撮影 「怠惰」はほど遠いギリギリの生活/学び、自省すべき社会全体の課題 気鋭の経済思想家、斎藤幸平さん(34)が現場を歩き、この社会を考える連載。今回訪れたのは、「日雇い労働者の街」と言われた大阪市西成区の通称・釜ケ崎(あいりん地区)=*=だ。メンタリストのDaiGo氏が「ホームレスの命はどうでもいい」と発言するなど、野宿者への偏見はいまだ根強い。バブル崩壊後、多くの野宿者が生まれたこの街で、貧困や差別の問題を見つめ直した。 「歌舞伎町で15歳の少年が野宿者に暴行」。8月23日にこのニュースを目にした時、脳裏に浮かんだのがDaiGo氏による例の差別発言だった。この時は多くの人が非難の声をあげ、本人も謝罪した。だが、彼ひとりの発言を「炎上」させるだけでいいのか
「Z世代」とは何か。 この世代はどんな社会を経験しているのか、どんな特徴があるのか。そもそも特徴をひとくくりに語っていいものなのか……。 こうした問いと格闘した『世界と私のA to Z』。 本書の著者であるZ世代当事者の竹田ダニエル氏と、経済思想史を専門とする東京大学准教授の斎藤幸平氏が、Z世代について語った(本記事は、『群像』1月号掲載の記事を編集したものです)。 【前編】「「日本のZ世代」と「アメリカのZ世代」はどう違うか? 日米を見てきた二人が示す「意外な違い」」 アーティストの発言を見て感じること 竹田 日本とアメリカの大きな違いで言えば、アメリカは現実が明らかに「終わっている」から、ラディカルなアクションによって変化を起こさなければいけないという切実感があるんです。 一方で日本では、ポップスターや芸能人の発言が注目されたり、人々にとっては現実逃避がメインになっている。ガールボスと
どうも、ShinShaです。今回は斎藤幸平の「ゼロからの『資本論』」に関する2回目の記事です。前回の記事では、資本主義の下ではあらゆるものが「商品化」され、社会の重要な富(=コモン)が失われ、労働環境が悪化するという内容でした。 今回の記事は、マルクスや筆者がどのような未来を描いているかがテーマです。残念ながら、マルクスは将来の社会像を具体的に描いていませんでした。しかし、膨大な量の研究ノートの中から彼が考えていた社会の姿が浮かび上がってきます。 それはソ連や中国のように国家が力を持った社会主義ではなく、人々のアソシエーション(= 連帯)でコモンを管理するという考え方でした。もし、この日本で大学や医療費が無料になったら、僕らの生活は大きく変わるはずです。 斎藤幸平「ゼロからの『資本論』」を読む グッバイ、レーニン コミュニズムが不可能だって誰が言った? 斎藤幸平氏著作のamazon 商品リ
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