京都学園大学 教授 山本 淳子 「春は、あけぼの。」 この冒頭の一節で知られる、古典文学の名作『枕草子』。今から千年前の平安時代中期、天皇の后に仕えた侍女・清少納言によって記され、日本最古の随筆作品として、現在も多くの人に愛されています。この冒頭部分を、学校の授業で暗唱したという方もいることでしょう。その際、『枕草子』は作者・清少納言の個性的な美意識を特徴とすると、聞かれた方も多いのではないでしょうか。 しかし、枕草子を貫く個性は、実は清少納言一人のものではありませんでした。 一条天皇の后・定子は、摂関家の長男を父に持つ一方、母は宮廷の女官出身の女性、つまり平安のキャリアウーマンでした。天皇の女性秘書官を務め、漢文にも明るい知性によって摂関家の妻、それも正妻の座を獲得した母は、その成功体験を子育てに生かしました。息子にも娘にも、教養と、臆せず前に出る積極性、そして親しみやすさを教え込んだの