夕方、少しの雷鳴の後、バラバラッと大粒の雨が通り抜けた。 お盆前からの狂暴な暑さにうんざりしていて、 どうせこの雨も湿気を呼ぶだけ、と思っていたのに、 夕飯の買い物に行こうと家を出たら、外気がひんやりしていた。 体半分を玄関に戻して夫に、 「外、涼しいよ!」と言い置いて、歩き出した。 母を介護していた数年間の、2度目の夏。 あの日も夕方、思いがけない涼気が訪れた。 ベランダに出て涼しさを確認した私は、母を車椅子に乗せて散歩に出た。 川沿いの道をのんびり歩く。 すれ違う人みんなに、涼しいですねえ、少し楽ですねえ、母は今ちょっと落ち着いてい るんです、と話しかけたいような気持ちで、私はニヤニヤしていたと思う。 何人かとは、微笑みあったかもしれない。 母も気分がよかったのか、優し気な表情をしていた。 ふと、短歌の一節が胸に浮かんだ。 「お母さん、気持ちいいね。こよい逢う人みな美しき、って感じだね