【はじめに】 昭和天皇崩御のちょうど1年前、日本の書店の局所で、『ホロフォニクス・ライブ』と題されたまがまがしい装丁のカセットブックがとぶように売れていた。そのカセットの中味は外装から連想できそうもない日常に付帯する音が収録され、定価は当時のミュージックテープの倍近い4800円。てっとり早くいえば、生活音のテープが高値でバカ売れしたのだ(!)。昨今、動画投稿サイトにひしめく「ASMR」コンテンツの系類の先祖(※註1)でもあるこのリリースを仕掛けたのは、古史古伝や神道霊学関連の文献を出版していた《八幡書店》だった(※註2)。これが呼び水となり、ヘンリー川原を名乗る音楽家が同出版社を訪れたことでひとつのストーリーが動きはじめる。 『ホロフォニクス・ライブ』カセット ヘンリー川原は福岡出身のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサーで、エンジニアリングも得意とし、90年代前半の短いあいだ、ア
トランペット奏者/作曲家として前衛音楽の発展に大きな功績を残したジョン・ハッセルが、2021年6月26日に亡くなった。 ハッセルは、1937年3月22日にアメリカのテネシー州で誕生。後年にカンを結成するメンバーらとともに、独ケルンにてカール・ハインツ・シュトックハウゼンに師事した。米国に戻ると、68年にテリー・ライリーのアルバム『In C』のレコーディングに参加。ラ・モンテ・ヤングが結成したシアター・オブ・エターナル・ミュージックのメンバーにも名を連ねる一方で、インド人歌手、パンディット・プラン・ナートに、キラニック・スタイルの歌唱を学んだ。インド古典音楽の旋法〈ラーガ〉に心酔したハッセルは、ラーガを習得すべく鍛錬を重ねたという。 そして、世界中の伝統音楽に対する関心が高まりから、〈第四世界〉のコンセプトを開発。エスニックな音楽とエレクトロニックなサウンドを融合させ、70年代後半に『Ver
井上鑑/Pヴァイン提供この記事の写真をすべて見る リイシュー『カルサヴィーナ』/Pヴァイン提供 1981年に大ヒットした寺尾聰の「ルビーの指環」。もしかすると、その曲のクレジットで初めて「その人」の名前を見た、という人が多いかもしれない。筆者も中学生当時、テレビの歌番組などでこの曲をとても気に入り、曲が収録されたアルバム『Reflections』を購入。その時に編曲者として、「その人」の存在を認識した。あるいは2000年代以降では、福山雅治のアルバムやツアーを通じて、その功績に辿り着いたリスナーもいるかもしれない。 【写真の続きはこちら】 「その人」こそ、井上鑑(いのうえ・あきら)だ。主に70年代以降、日本の音楽シーンを支えてきた最重要人物の一人だ。その井上が84年11月にリリースしたものの、近年まで長きにわたり入手困難だった作品『カルサヴィーナ』がこのほど、世界初CD化されて静かな話題を
昨今、かつてここ日本で制作されたアンビエントミュージックやニューエイジミュージックと呼ばれる作品が、国内外の音楽ファンから熱い注目を集めているということを見聞きしたことのある方は少なくないだろう。 1980年から90年にかけて制作されたそうした楽曲をコンパイルした「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」(Light in the Attic)が、第62回(2019年度)グラミー賞における最優秀ヒストリカルアルバム部門にノミネートされるといった象徴的な出来事もあったし、そこに収録されていた、吉村弘、芦川聡、矢吹紫帆、尾島由郎、日向敏文、小久保隆といったアーティストたちのオリジナル作が中古レコード市場において軒並み高騰し、関連作を含め海外レーベルから次々と再発されるという事態も並走してきた。
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アナ・ロクサーヌはサンフランシスコ出身のアジア系のニューエイジ音楽家だ。アナの生みだすドローン音楽には、北インドの古典音楽のヒンドゥスターニ音楽の響きがあり、同時に西カトリックの聖歌隊のような響きもある。西欧のクラシックとアジア音楽のエッセンスがアンビエントやアナの声やドローンの中に溶け合っている。アナの出自も大きく関係しているかもしれない。 移民の両親によって育てられアナは、ジャズ、クラシック、合唱音楽を学び、その神聖さを知った。2013年、インドのアターカンドで過ごしたとき、アナは人生を左右するほどに重要な声/歌の教師に出会い、共に生活し、勉強をした。彼女はアナに古典的なヒンドゥスターニの歌を教えた。この体験はカリフォルニア州オークランドにある実験的なミルズカレッジで音楽研究を終了することになる大きなきっかけになった。2018年、アナは自身がインターセックスであるということも公表した。
80年代、シティ・ポップとシンセ・ポップを横断する独特の音世界を作り上げ、〈シンセの歌姫〉と謳われた山口美央子。作曲家としても知られる彼女の作品は、2010年代後半にYouTubeなどを経由して国内外で再び注目を集める――。 そんな山口が2018年12月、実に36年ぶりの新作『トキサカシマ』を発表した。さらに間を置かず、セルフ・カヴァー・アルバム『FLOMA』をリリース。これを機に、〈なぜいま山口美央子の音楽に光が当たっているのか?〉を、ディレクター/ライターの柴崎祐二が現在の視点から解き明かした。 *Mikiki編集部 類まれなシンガー・ソングライター/作曲家、山口美央子 この一年ほどで〈山口美央子〉というアーティストの名を様々な場面で目にし耳にする機会が増えていることに、ヴェテラン音楽ファンに限らず多くの若年リスナーもお気づきだろう。 1980年、弱冠21歳にしてアルバム『夢飛行』でデ
1980年代の日本の環境音楽が国際舞台で再評価されていること自体はポジティヴな出来事に違いないが、その代表のひとつを芦川聡のサウンド・プロセス一派とするなら、やはり、ニュー・エイジと一緒くたにするべきではないだろう。というのも、彼らは環境音楽をジョン・ケージ以降の音楽として捉えていたからだ(つまり、感情や感覚ではなく、妄想や幻覚でもなく、極めて論理的に考察されている)。 しかしながら、海外メディアが80年代における日本のアンビエントの急速な展開を高度経済成長がもたらしたさまざまな害悪(都市生活のストレス、モルタルとコンクリートが引き起こす閉所恐怖症、自然破壊などなど)への反応と分析するとき、まあそれはたしかに遠因としてあるのだろうと認めざるえない側面に気が付く。細野晴臣のアンビエントはYMO以降における心の癒しでもあったし、実際、疲れ切った都会人の心に吉村弘の透き通ったアンビエント・サウン
AOR、シンセウェイブ、ブギー、バレアリック…様々なスタイルのハイブリットかつ超ハイクオリティの音楽性と世界的な再評価も著しいニューエイジ~アンビエント的世界が融合したサウンドで話題となったオーストリアのライトメロウ・ユニット“ゼニート”による1986年作品『ストレート・アヘッド』。今回の世界初CD化にあたって、そのゼニートの中心メンバーであるウィル・ランガー(ベース)、ハンス・トライバー(キーボード)の二人が特別にインタビューに応じてくれた。当時の活動やシーンについて、どんな音楽を吸収し、そしてどんなアイデアの元この傑作が制作されたのか。これまで謎に包まれていたそれらを解き明かす貴重な証言をここにお届けする。 ZENIT『Straight Ahead』ティーザー 【ウィル・ランガー&ハンス・トライバー(From Zenit) スペシャルインタビュー】 Q:ゼニートの結成とその後の活動につ
ele-kingに寄稿したCHAI『PINK』のレヴューで、「いま、80年代のカルチャーが注目されている」と書いたが、それはエレクトロニック・ミュージックも例外ではない。なかでも特筆したいのは、ヴェロニカ・ヴァッシカが主宰する〈Minimal Wave〉の活動だ。〈Minimal Wave〉は、2000年代半ばから現在まで、チープで味わい深い電子音が映える80年代のミニマル・シンセやニュー・ウェイヴを数多くリイシューしてきたレーベル。いまでこそ、80年代の作品を発掘する流れはブームと言えるほど盛りあがっているが、そんな流れの先駆けという意味でも重要な存在だ。 そうしたブームは、日本で生まれた音楽を再評価する動きにも繋がっている。この動きに先鞭をつけた作品といえば、ヴィジブル・クロークスが2010年に発表したミックス、『Fairlights, Mallets And Bamboo ― Fou
最近、柴崎裕二氏のブログ記事である「<ニューエイジ>復権とは一体なんなのか」と、同氏によるele-kingでのTakao「Stealth」のレビュー、そして、動物𝓛𝓸𝓿𝓮知识𝛃𝛐𝛕氏のnoteでの様々な記事、ショコラ氏の翻訳された「日本のアンビエントミュージックはどのようにして新しいオーディエンスと出会ったのか」などに触発され、今回、2010年代以後大きく加速してきた、いわゆる「ニューエイジ・ミュージックの復権」(再興)について、自分の思い当たる限りのインフォメーションをまとめておこうと思い至った。 まず、これらの動きの顕著な特徴とは、旧来的な価値観の更新/アップデート及びそれらの世界的な受容、その結果育まれてきた土壌が可能にした、さらなる深化と拡大、リバイバルの再生産である。たとえば、東京の偉才= Chee Shimizu氏が世界へと広めた「オブスキュア」の様に、これらの軸
2019年2月15日、再発レーベル Light In The Atticから日本の環境音楽のコンピレーション「Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990」がリリースされました。 近年、高田みどり「鏡の向こう側」を筆頭に、海外における日本のアンビエントの再評価がはじまっています。数々の再発ラッシュ、ロンドンのインターネットラジオ局NTSによる細野晴臣特集、さらにはVampire Weekendが細野晴臣のアンビエント作品「花に水」をサンプリングするなど、その盛り上がりはとどまるところを知りません。 そして再評価の波は、ついに環境音楽まで届きました。このテキストは「日本の環境音楽」が再評価され、「Kankyō Ongaku」がリリースされるまでの歴史を辿る、一連のテキストの目次です。 1. バ
この記事は「環境音楽の再発見」の終章です。目次はこちら 2019年2月15日、Light In The Atticから日本の環境音楽にフォーカスしたコンピレーション「Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990」がリリースされた。 収録されているアーティストは坂本龍一、細野晴臣、松武秀樹、YMO、吉村弘、芦川聡、久石譲、清水靖晃、イノヤマランド……いずれも日本のそうそうたる音楽家である。 ジャケットは日本の建築家・槇文彦の設計した鹿児島県、岩崎美術館の写真で、撮影は建築写真で有名なカメラマンの村井修によるもの。槇文彦は青山にある株式会社ワコールの運営する多目的ホール「青山スパイラル」の設計者であり、またスパイラルは槇文彦の代表作とも言われている。「Kankyō Ongaku」に収録されている
山口美央子が80年代初頭にリリースした3作品(『夢飛行』、『NIRVANA』、『月姫』)がようやく復刻再発されたということは、昨年2018年のリイシュー・シーンの中でも特に大きな出来事だった。デンシノオト氏によるレヴューでも言及されているように、これらのリイシューは、単に「懐かしの和モノ盤」の発掘というわけではなく、昨今の音楽シーンの動向と密接に連動するものだった。 井上鑑がアレンジを担当し、《4人目のYMO》松武秀樹がプログラミングを担当した1st 『夢飛行』と 2nd 『NIRVANA』は、シティ・ポップとテクノ・ポップの小粋なマリアージュとして、いかにもテン年代末的リスニング・センスに合致するものだ。そして、一風堂の土屋昌巳がアレンジャーとして参加し、前2作と同じく松武がプログラミングを担当した 3rd 『月姫』は、収録曲“白昼夢”に象徴的なように、昨今のジャパニーズ・アンビエント再
ミシェル・ウエルベックの出世作となった長編小説『素粒子』のエピローグ。20世紀から21世紀へとミレニアムが移行する只中、20世紀の量子力学によって切り開かれた成果をもって分子生物学を不可逆的に発展せしめた主人公(の一人)ミシェル・ジェルジンスキの偉業を彼の死後正当に評価したことで、その後の生命倫理のパラダイム転換に大きな寄与をしたとされる科学者フレデリック・ハブゼジャックの仕事を、更に後年の科学史家が論評しているという入り組んだ話法を取るこの最終章こそは、この小説の持つ汎歴史的且つ同時に脱歴史的ともいえる稀有なダイナミズムを最も顕著な形で伝える部分であろう。 その中に、20世紀後半にかけて興隆を見せたニューエイジ運動について言及する、興味深いテキストがある。曰く…… (前略)ハブゼジャックの真の天才的側面とは、問題のありかを見抜く信じがたいほど的確な眼力によって、二十世紀末に<ニューエイジ
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