★起稿の動機 久しく書字についての関心を失っていた。雑文を書き、漢詩をものする人間として、本来はもっと関心を持ち続けていなければならなかった筈だが、やはり一字一字について、肉筆での表記の機会が少なくなって以来、自然に注意が薄れていたのかもしれない。それがこのところ、にわかに関心事となった。 私が属している漢詩実作の会、裁錦会(学士会の趣味グループ)に入会したとき、詩稿作成に当つては「楷書・旧字体」と用いるように言われた。その趣旨について格別の説明があったわけではない。ただごく自然に、「楷書」は、自らが表記の正確性を確認し、他の会員の読解を容易かつ確実にするものであり、また「旧字体」は、漢詩の実作を通じて漢字文化の伝続の継承、伝達に志すという立場から、便宜本位に走らず、長年の歴史を経た旧字体を尊重する、ということだと理解していた。 実は入会以前に就いていた漢詩の先生から、「常用漢字を使