映画『この世界の片隅に』片渕須直監督に聞く 空を見上げて生きる普通の暮らしの愛おしさ 叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師 逆境から奇跡的大ヒットを達成 長編アニメーション映画『この世界の片隅に』の大ヒットが続いている。こうの史代氏による同名漫画をベテランの片渕須直監督が6年半を費やして映画化。戦中の広島と呉を舞台に、18歳で嫁いだ主人公すずとその家族の日常を丁寧に綴っている。食糧難、空襲の激化、原爆投下、そして敗戦へと至る最悪の状況下にあっても、毎日、炊事洗濯を行い、笑顔で生き抜く庶民の暮らしには、東日本大震災を経験した70余年後の我々の日常とも響き合う奥深さがある。 失われた広島や呉の風景や暮らしの再現、穏やかな日常から空襲の恐怖までを的確に捉えた画面構成、余韻を感じさせる仕草の柔らかさ、水彩画や心理的イメージが動き出す驚きなど、全編が新