梯久美子『百年の手紙』(岩波新書)を読む。副題が「日本人が遺したことば」で、20世紀の100年間に日本人が書いた100通あまりの手紙を紹介している。最初に置かれたのが田中正造から明治天皇への直訴状だ。足尾銅山の鉱毒を訴えている。ほかには、幸徳秋水から堺利彦へ、中国戦線で亡くなった映画監督山中貞雄の遺書、硫黄島で玉砕した市丸利之助少将からルーズベルト大統領にあてた手紙、終戦直後に昭和天皇から皇太子へあてた手紙、夫婦や恋人同士の手紙、親から子への手紙、正岡子規から夏目漱石へ、そして死者からの遺書と弔辞など。 強く印象に残った手紙。シベリア抑留中に亡くなった山本幡男の遺書は戦友たちが手分けして暗記し、長文の遺書を遺族に伝えた。なぜ暗記して伝えたのか? 遺書を記憶して届けるという方法を考え出したのは山本自身だった。やっと帰国が決まっても、書いたものを持ち帰ろうとしているのが見つかれば、また収容所に