すぐれた時評集である。この中の、加藤直樹論文“「昭和十九年」を生きる”にしぼって紹介する。じっさい、これを読むだけでも元は取れるのではないだろうか? 現在は昭和十九年に酷似していると著者は言う。すなわち、あの戦争の末期だ。 GHQの占領と日米安保体制によって日本は敗戦処理、植民地主義の清算をアウトソーシングできた。そのことは、フクイチの原発事故に対する支配層の無反省にもつながっているのではないか。著者はおおよそそのように指摘している。 著者は近代日本の歩みを次のように整理している。すなわち、立身出世と進歩を軸とした帝国主義。帝国主義というと、右翼や資本主義が思い浮かぶかもしれない。しかし「左」の潮流も例外ではなかった。たとえば中国の革命家に冷淡だった幸徳秋水(これについては、石母田正「幸徳秋水と中国」の参照が求められている)。そして、大阪事件を起こした大井憲太郎。 著者は「日米もし戦わば」