『バロック音楽はなぜ癒すのか』(音楽之友社)に書いたことの一部を、分かりやすく言い換えてみよう。 フランス・バロックの音楽は、1650年から1750年の100年間に、その後いわゆる「西洋近代音楽」に発展したイタリア・ドイツ系のバロック音楽とは全く違う、いわば「ガラパゴス」的な展開をした。その後、ある種のヨーロッパ・グローバリゼーションと民主化と産業革命の流れの中で、フランス・バロックは絶滅種となってしまう。 ここでフランス・バロックと言うのは、別にフランス人がフランスで作曲したものと言うわけではなく、スタイルの問題であり、バッハもたとえばフランス組曲を書いている。 フランス・バロックは非常に複雑で知的な体系だった。 それを可能にしたのはルイ14世に頂点をなした中央集権的な芸術の囲い込みという政治的経済的背景である。宮廷や首都に、コーラスやバレエ団やオーケストラや大がかりな機械仕掛けを常駐さ