『カインの末裔』 は大正6年に発表された短編小説。 貧しい小作農の仁衛門(にんえもん)は自分の飼っている馬に乗り、競馬に出場する。ところが、競技中の事故により、馬は前脚を二本とも骨折してしまう。 金を喰う機械――それに違いなかった。仁右衛門は不愍(ふびん)さから今まで馬を生かして置いたのを後悔した。彼れは雪の中に馬を引張り出した。老いぼれたようになった馬はなつかしげに主人の手に鼻先きを持って行った。仁右衛門は右手に隠して持っていた斧で眉間を喰らわそうと思っていたが、どうしてもそれが出来なかった。彼れはまた馬を牽(ひ)いて小屋に帰った。 有島武郎 『カインの末裔』 七 北海道の開拓地での極貧の生活。そこに生きる仁衛門は、暴力、セックス、酒、博打とあらゆる罪業の淵に沈んでいる。しかし彼は、上に引用した馬を殺そうとして躊躇う場面をきっかけに彼は変貌していく。(最後は結局殺してしまうのだけど。)