「向坂文庫」について 二 村 一 夫 1 はじめに 1985年7月、大原社会問題研究所は、故向坂逸郎氏が生涯をかけて収集された7万冊の図書・資料を、ゆき夫人から寄贈された。じっさいに本が向坂家から大原社研の書庫に移ったのは翌86年3月、研究所の多摩校地への移転と同時である。その後4年間、いまでは図書の仮目録ができ、雑誌や新聞についてもその内容が明らかになりつつある。まだ資料類には手がついておらず、文庫の全容を示すという段階にはないが、図書を中心にその内容を紹介したい。 2 向坂逸郎氏のこと この膨大な図書を収集された向坂逸郎氏は、マルクス経済学者として数多くの業績をあげると同時に、戦前から「労農派」を代表する理論家として論壇で活躍された。戦後も、旺盛な文筆活動とともに、日本社会党左派の理論研究集団である社会主義協会の指導者として、広く知られた方である。いまさら紹介の要はないとも思うが、す