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ブックマーク / nikubeta.hatenablog.com (25)

  • 稲葉、ギブスの熱力学と統計力学 - オシテオサレテ

    以下では読んでよかった作品を少し紹介して行きます。 稲葉肇、「ギブスの熱力学と統計力学 物理化学の視点から」、『科学史研究』、第49巻、2010年、1-10頁。 アメリカ人の物理学者であるジョサイア・ウィラード・ギブスは19世紀に熱力学と統計力学を完成させた人物として知られています。しかし意外にもこの人物がどのように統計力学を定式化したかという点についての研究はほとんどありません。 この論文は主として彼の統計力学に関する主著を分析することで、彼の熱力学が物質の化学的性質を説明するためのものであったことを明らかにします。このようなギブスの統計力学は、気体の性質を導くために統計力学の前身となる理論を作り上げたマクスウェルやボルツマンとは対照的であるとされます。 実質的なデビュー論文でありながら非常に高い完成度を誇る稲葉さんの論文です。難解といわれるギブスの科学著作を分析し、しかもその結果に適切

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  • 顔を持たぬために歴史を書くこと 慎改『ミシェル・フーコー』 - オシテオサレテ

    ミシェル・フーコー: 自己から脱け出すための哲学 (岩波新書 新赤版 1802) 作者: 慎改康之 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/10/19 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 慎改康之『ミシェル・フーコー 自己から抜け出すための哲学』岩波新書、2019年。 著者は、フーコーの著作、講義録の見事な翻訳と、明晰な解説をすでにいくつも世に送り出している。書は、その著者による待望のフーコー入門書である。入門書であるのだから、フーコーの主要著作の内容紹介はもちろんなされる(まだ邦訳のない『肉の告白』の解説もなされる)。しかし、それと並んで書が重視するのは、著作と著作のあいだにあるつながりである。フーコーは次々と主題を変える。その変化をどう説明すればいいのか。 著者によれば、最初期のフーコーの問題意識は、近代社会のなかで失われた人間性をどう取り戻すか、というものだっ

  • 哲学のクロムウェルたるニュートン Schaffer, "Fontenelle's Newton" - オシテオサレテ

    Simon Schaffer, "Fontenelle's Newton and the Uses of Genius," L'Esprit Créateur 55 (2015): 48–61. https://muse.jhu.edu/login?auth=0&type=summary&url=/journals/lesprit_createur/v055/55.2.schaffer.html フォントネル(1657–1757)が「天才」の概念をどのように利用したかを検討することを通じて、彼が才能ある知識人がはたすべき役割についてどのような考えをもっていたかを明らかにする論文である。主な分析の対象は1727年11月12日に行われたニュートン賛辞である。フォントネルによれば、ニュートンは疑いようもなく天才であった。その実験科学と力学における貢献は高く評価されるべきである。しかしフォントネル

    哲学のクロムウェルたるニュートン Schaffer, "Fontenelle's Newton" - オシテオサレテ
  • モミリアーノの史学史 Grafton, "Momigliano's Method and the Warburg Institute" - オシテオサレテ

    Worlds Made by Words: Scholarship and Community in the Modern West 作者: Anthony Grafton出版社/メーカー: Harvard University Press発売日: 2011/05/31メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (2件) を見る Anthony Grafton, "Momigliano's Method and the Warburg Institute: Studies in His Middle Year," in Grafton, Worlds Made by Words: Scholarship and Community in the Modern West (Cambridge, MA: Harvard University Press, 2009), 231-54. モミ

  • 知性単一論に向けて Taylor, Long commentary on the De Anima of Aristotle, #2 - オシテオサレテ

    Long Commentary on the De Anima of Aristotle (Yale Library of Medieval Philosophy Series) 作者: Averroes,Richard C. Taylor出版社/メーカー: Yale University Press発売日: 2009/10/20メディア: ハードカバー クリック: 9回この商品を含むブログ (3件) を見る Richard C. Taylor, "Introduction," in Long commentary on the De Anima of Aristotle, trans. Richard C. Taylor with Thérèse-Anne Druart (New Haven: Yale University Press, 2009), xv-cix, here xlii

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  • 社団を編成する政治権力 二宮「フランス絶対王政の統治構造」 - オシテオサレテ

    ソシアビリテと権力の社会史 (二宮宏之著作集 第3巻) 作者: 二宮宏之,福井憲彦,林田伸一,工藤光一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2011/12/22メディア: 単行この商品を含むブログを見る 二宮宏之「フランス絶対王政の統治構造」吉岡昭彦、成瀬治編『近代国家形成の諸問題』木鐸社、1979年、183-233ページ(『二宮宏之著作集 第3巻 ソシアビリテと権力の社会史』岩波書店、2011年、133-176ページに収録)。 フランス絶対王政理解のための新しい視角を打ちだした重要な論文である。キーワードは社会的結合関係である。 絶対王政の古典的イメージとは次のようなものである。王はあらゆる法にしばられない。王は官僚機構と常備軍を利用して、王国をあますところなく統治する。しかしこのような絶対王政イメージは近年の研究により掘りくずされはじめている。まずフランス王国の領域は必ずしも判然とし

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  • モーセを求め、モーセの知らなかった世界へ Jorink, "Noah's Ark Restored (and Wrecked)" - オシテオサレテ

    Silent Messengers: The Circulation of Material Objects of Knowledge in the Early Modern Low Countries (Low Countries Studies on the Circulation of Natural Knowledge) 作者: Sven Dupre,Christoph Luthy出版社/メーカー: Lit Verlag発売日: 2011/08/18メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る Eric Jorink, "Noah's Ark Restored (and Wrecked): Dutch Collectors, Natural History and the Problem of Biblical Exegesis," in Silent Mess

    モーセを求め、モーセの知らなかった世界へ Jorink, "Noah's Ark Restored (and Wrecked)" - オシテオサレテ
  • プラトンをめぐる新教と旧教 Gerson, "Cherniss and the Study of Plato Today" - オシテオサレテ

    Lloyd P. Gerson, "Harold Cherniss and the Study of Plato Today," Journal of the History of Philosophy 52 (2014): 397–409. https://muse.jhu.edu/login?auth=0&type=summary&url=/journals/journal_of_the_history_of_philosophy/v052/52.3.gerson.html https://www.academia.edu/7531339/Harold_Cherniss_and_the_Study_of_Plato[著者のアカデミア。ダウンロード可能] 北米でのプラトン解釈の傾向を、Harold Chernissというプリントン高等研究所に所属していた研究者の影響の帰結として読みとく論

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  • パリ科学アカデミーのなかの錬金術 Principe, "End of Alchemy?" - オシテオサレテ

    Chemical Knowledge in the Early Modern World (Osiris, Second Series) 作者: Matthew Daniel Eddy,Seymour H. Mauskopf,William R. Newman出版社/メーカー: Univ of Chicago Pr発売日: 2015/03/11メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る Lawrence M. Principe, "The End of Alchemy?: The Repudiation and Persistence of Chrysopoeia at the Académie Royale des Sciences in the Eighteenth Century," Osiris 29 (2014): 96–116. http://www.js

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  • 実験室のなかへ - オシテオサレテ

    Science In Society: An Introduction to Social Studies of Science 作者: Massimiano Bucchi出版社/メーカー: Routledge発売日: 2004/02/05メディア: ペーパーバック クリック: 3回この商品を含むブログ (2件) を見る Massiano Bucchi, Science in Society: An Introduction to Social Studies of Science (London: Routledge, 2004), 61–76. 科学社会論の標準的教科書から実験室研究を取り上げた部分を読みました。科学的知識が社会的に構成されるという立場は、規模の大きな社会的要因が科学知識形成の過程に因果的に関与すると想定していました。これに対抗する形で1970年代半ばより現代科学に関し

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  • 形相付与者の新解釈 Richardson, "Avicenna and Aquinas" - オシテオサレテ

    The Arabic, Hebrew and Latin Reception of Avicenna's Metaphysics (Scientia Graeco-arabica) 作者: Dag Nikolaus Hasse,Amos Bertolacci出版社/メーカー: De Gruyter発売日: 2011/05/30メディア: ハードカバー クリック: 2回この商品を含むブログを見る Kara Richardson, "Avicenna and Aquinas on Form and Generation," in The Arabic, Hebrew and Latin Reception of Avicenna's Metaphysics, ed. Dag N. Hasse and Amos Bertolacci (Berlin: de Gruyter, 2012), 251

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  • 単数説と複数説の起源 Callus, "The Origins of the Problem of the Unity of Form - オシテオサレテ

    The Dignity of Science; Studies in the Philosophy of Science 作者: William Humbert Kane,James A Weisheipl出版社/メーカー: Nabu Press発売日: 2011/09/05メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る Daniel A. Callus, "The Origins of the Problem of the Unity of Form," in The Dignity of Science: Studies in the Philosophy of Science Presented to William Humbert Kane, O. P., ed. James A. Weisheipl (Washington: Thomist Press, 196

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  • 神々の争いのなかの物質主義 タカハシ、ヒライ『危険な物質主義の系譜』 - オシテオサレテ

    危険な物質主義の系譜: アレクサンドロス、アヴェロエス、アルベルトゥス 作者: ヒロ・ヒライ,アダム・タカハシ発売日: 2015/01/13メディア: Kindle版この商品を含むブログ (3件) を見る アダム・タカハシ、ヒロ・ヒライ『危険な物質主義の系譜 アレクサンドロス、アヴェロエス、アルベルトゥス』2015年。 表記の二人によるラジオ放送を増補改訂して活字化したものである。博士論文を完成させたアダム・タカハシさんが、調査・執筆の過程のなかで、発見を積み重ね、それらの発見から一つのきわめて重要な伝統の存在が浮かびあがらせていくさまがあますところなく語られている。中世の神学者であるアルベルトゥス・マグヌスからアラビアの注釈家であるアヴェロエスへ、アヴェロエスから古代ギリシアの注釈家にしてすべてのはじまりであるアレクサンドロスへ、そしてアレクサンドロスの著作にある天空=神という衝撃的な理

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  • アヴィセンナ、イスラム神学、アヴェロエスの戦略 Bertolacci, "Averroes against Avicenna" - オシテオサレテ

    Renaissance Averroism and Its Aftermath: Arabic Philosophy in Early Modern Europe (International Archives of the History of Ideas Archives internationales d'histoire des idées) 作者: Anna Akasoy,Guido Giglioni出版社/メーカー: Springer発売日: 2012/12/13メディア: ハードカバー クリック: 1回この商品を含むブログ (1件) を見る Amos Bertolacci, "Averroes against Avicenna on Human Spontaneous Generation: The Starting-Point of a Lasting Debate," R

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  • イエズス会によるアクィナスの支持とアヴェロエスの排除 Martin, Subverting Aristotle, ch. 5 - オシテオサレテ

    Subverting Aristotle: Religion, History, and Philosophy in Early Modern Science 作者: Craig Martin出版社/メーカー: Johns Hopkins Univ Pr発売日: 2014/03/13メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (3件) を見る Craig Martin, Subverting Aristotle: Religion, History, and Philosophy in Early Modern Science (Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2014), 86-92. ルネサンスアリストテレス主義の最新の概説書から、イエズス会士を扱った節を読んだ。ここもまたアヴェロエスを軸に論じている。 イタリアの自然哲学者がアヴ

    イエズス会によるアクィナスの支持とアヴェロエスの排除 Martin, Subverting Aristotle, ch. 5 - オシテオサレテ
  • 古くてよいガリレオへの入り口 青木『ガリレオ・ガリレイ』 - オシテオサレテ

    ガリレオ・ガリレイ (1965年) (岩波新書) 作者: 青木靖三出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1965/11/20メディア: 新書この商品を含むブログを見る 青木靖三『ガリレオ・ガリレイ』岩波新書、1965年。 もはや半世紀近く前のである。しかしまだ読む価値がある。近年オックスフォード大学出版会から出されている入門書よりよいと思う。なによりもこれだけの分量でガリレオ・ガリレイについて知るべきことをほぼ網羅してくれているのがすばらしい。とくにガリレオの性格・生活や彼をとりまく人間模様をうかがわせるような記述が随所に散りばめられているのが楽しい。彼が職を得るためにトスカナ大公(彼のパトロンとなる人)にあてた手紙であるとか、ヴェネツィア共和国を去るにあたって友人のサグレドが送った警告であるとか、ガリレオの娘や息子が彼に送った書簡であるとか、印象深い史料が引用されている。また『天文対話

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  • となりの異端と新科学 Lüthy, "Confessionalization of Physics" - オシテオサレテ

    Heterodoxy in Early Modern Science And Religion 作者: John Hedley Brooke,Ian MacLean出版社/メーカー: Oxford Univ Pr on Demand発売日: 2006/01/19メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (2件) を見る Christoph Lüthy, "The Confessionalization of Physics: Heresies, Facts and the Travails of the Republic of Letters," in Heterodoxy in Early Modern Science and Religion, ed. John Brooke and Ian Maclean (Oxford: Oxford University Press, 200

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  • 模擬弁論をつくる文献学者 ヴァッラ『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』第1章 - オシテオサレテ

    「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず 作者: ロレンツォヴァッラ,Lorenzo Valla,高橋薫出版社/メーカー: 水声社発売日: 2014/04/01メディア: 単行この商品を含むブログ (3件) を見る ロレンツォ・ヴァッラ『「コンスタンティヌスの寄進状」を論ず』高橋薫訳、水声社、2014年、17-50ページ。 ロレンツォ・ヴァッラが15世紀半ばに著した書物は、ルネサンス人文主義を代表する業績として広く知られている。そこでヴァッラは長きにわたってその真正性が疑われてこなかった文書が捏造であることを暴いてみせた。その文書とはいわゆる「コンスタンティヌスの寄進状」である。コンスタンティヌス大帝が当時の教皇シルウェステルに、西ローマ帝国の支配領域を寄進したと記録する文書である。これが後代の創作であることをヴァッラは人文主義が研ぎ澄ませてきた文献学のメスをふるうことで白日の下にさらしたと

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  • 人間学のうちにある神の見えざる手 フィリップソン『アダム・スミスとその時代』 - オシテオサレテ

    アダム・スミスとその時代 作者: ニコラスフィリップソン,永井大輔出版社/メーカー: 白水社発売日: 2014/06/28メディア: 単行この商品を含むブログ (8件) を見る ニコラス・フィリップソン『アダム・スミスとその時代』永井大輔訳、白水社、2014年。 多くの人がアダム・スミスの名を聞いたことがあるだろう。それはしばしば神の見えざる手という言葉とセットとなっている。そんなとき、その名は常に結びついているのは経済学だ。『国富論』の著者アダム・スミスは近代経済学の祖というわけである。 この理解は多くの通俗的理解がそうであるように間違ってはいない。しかし多くの通俗的理解の常として事態の半分しかとらえていないようである。そこではスミスにはもうひとつの代表的著作として『道徳感情論』があったことが見落とされている。倫理と道徳の問題を扱ったこの著作は、『国富論』と無関係ではない。無関係でない

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  • 増大する博士需要 梶原「中世後期南フランスにおける大学神学部と托鉢修道会」 - オシテオサレテ

    梶原洋一「中世後期南フランスにおける大学神学部と托鉢修道会 トゥールーズとモンペリエの事例から」『地中海学研究』33号、2010年、25-46ページ。 昨日とりあげた論文と同じく、こちらも中世後期の大学のありように神学教育の観点からせまった作品である。問題となっているのは、14世紀後半以降に神学部の設置が各地の大学に認められていくという状況である。それ以前はパリ、オックスフォード、教皇庁学院にしか教皇権は神学部と学位授与権を認めていなかった。この制限のは以後には教義の統一を保とうという教皇庁の意図があったと思われる。だがしだいに托鉢修道士の博士号への受容が高まりはじめる。学位は役職を得るための重要な指標となる。都市からの説教の依頼は学位を取得しているものにいく。報酬も学位取得者にはずまれる。このため諸侯や都市が修道士のパリでの学位取得費用を肩代わりするということも起こっていた。このような博

    増大する博士需要 梶原「中世後期南フランスにおける大学神学部と托鉢修道会」 - オシテオサレテ