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ブックマーク / note.com/propara (5)

  • 天国と地獄|ProPara

    わたしは団鬼六に会ったことがない。それを言うなら、恥ずかしながら、『花と蛇』を代表作とするSM小説も読んだことがない。それではたしてこの解説を書く資格があるのかどうか、大いに疑問だと言わざるをえないが、それでも将棋というささやかな一点で間接的なつながりがあるので、それだけをたよりに書いてみようと思う。 団鬼六が初めてわたしの視界に入ったのは、書にも出てくる、今は亡き将棋雑誌『将棋ジャーナル』で、プロアマのお好み対局として団鬼六が登場したときだったと思う。手元にその雑誌がないので、くわしいことは記憶していない。相手のプロは誰だったか(現役を退いた棋士だったような気がするが、自信はない)、手合いは飛落ちか角落ちか、すっかり忘れている。しかし、たったひとつ記憶しているのは、その棋譜を並べてみて、団鬼六が予想以上に指せる、と感心したことだ。勉強しておぼえたという将棋ではない。いわば身体でおぼえた

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  • 世話噺詰将棋巷談|ProPara

    森毅の対談集『世話噺数理巷談』(平凡社)を読んでいて、びっくりしたことがある。森毅とは、数学者で京大名誉教授というエラいセンセーだが、むしろそういう肩書よりも「一刀斎」と異名をとる評論家として有名である。 このは浅田彰がプロデュースしたもので、一刀斎のなかでも上位に属するおもしろさなのだが、そのに芥川賞作家の森敦(故人)との対談が収められている。そのモリ・モリ対談で、いつのまにか詰将棋の話題になって、次のようなエピソードが語られるのだ。 敦 いま詰め将棋とおっしゃいましたが、信州の飯田という所に行って講演したときに、その講演会をやった人が、帰りがけに、「ちょっと自己宣伝をさしていただきます」と言うんですわ。自己宣伝って何かなって思ってたらですね、詰め将棋の評論家だって言うんですよ。 毅 ほほう。 敦 詰将棋というのは、いろいろ凝って作るらしいんです。それで「何ですか、詰め将棋って言うの

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  • 思い出図書館|ProPara

    『勇者ダン』は一九六〇年に少年サンデーに連載されていた漫画である。当時わたしは小学四年生で、毎週、少年サンデーと少年マガジンの発売日になると、八〇円を握りしめて近所の屋に行ったものだ。 『勇者ダン』とはそうして出会った。旭川の貨物列車から脱走した虎のダンと、少年コタンの冒険物語だ。危機一髪の場面が続いて、とうとう最終回。瀕死の重傷を負いながらも、ダンは隠された宝のありかを記した手紙を届ける。苦しむダンを見て、コタンはダンを拳銃で撃ち殺し、ダンにすがりついて「ダン! ぼくの大事な大事な、世界じゅうで一番好きなダン!」と泣き叫ぶ。 屋根裏部屋でこれを読んでいたわたしは、こらえきれずに、枕に顔をうずめてわんわん泣いたことを憶えている。どうしてあんなに泣いたのだろうか。そのころわたしはを飼っていたので、自分がいちばん愛している動物を自分の手で殺す気持ちがどんなものか、実感としてよくわかったから

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  • 連載「記憶の本棚」 第14回|ProPara

    年がら年中椅子に座ってを読むことを商売にしている人間にとっては、俗に「寺に入るまで治らない」と言われる病気は大敵である。その例に漏れず、わたしも若い頃からその病気に慣れ親しむようになった。まだその状態を楽しむだけの余裕があった時期には、好きのそれこそ死ぬまで治らない病で、病院を訪れる代わりにその種の文献を好んで読んでいたものだ。講談社文庫に入っていた山田稔の『スカトロジア(糞尿譚)』を読んだのは、二十代の終わり頃ではなかったかと思う。 いかにもフランス文学者らしく、糞尿をめぐるウンチクばなしが盛り込まれていて楽しく読めるが、書が精彩というか異彩(異臭?)を放っているのは、「I外科病院にて」と「ウンコッロ・クラッター氏の世にもすばらしき体験」の二篇である。前者は、山田稔が京都の「北白川のI医院」で手術を受けたときの体験記で、手提かばんに「あのいまいましい」セリーヌの『夜の果ての旅』一巻

    連載「記憶の本棚」 第14回|ProPara
  • 推理小説の愉しみ|ProPara

    推理小説(ミステリ)は、大衆小説の一ジャンルとして。最も広く親しまれているものである。その推理小説の読み方と愉しみ方を、具体的な実例を通して考えてみたい。 推理小説の代表的な例となると、「ミステリの女王」とも呼ばれる、アガサ・クリスティーの作品を選ぶことに異論は出ないだろう。世界中のミステリ愛読者から今なお愛されつづけている、クリスティーの数多い作品群の中から、ここでは有名な『オリエント急行の殺人』(一九三四)を取り上げて考察することにする。古典的探偵小説に属するこの名作は、雪で動かなくなった国際寝台列車の中で殺人事件が発生し、世界各国からやってきた乗客の中に混じっていた名探偵エルキュール・ポアロがその謎を解くという筋書きである。この講義では真相を完全に明らかにすることはしないが、かなり内容に立ち入った話をするので、必ず『オリエント急行の殺人』を読み終わってから講義を読んでほしい。 なお、

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