京都を舞台に奇想天外な物語を発表してきた著者の最新作は、かの有名な名探偵ホームズが主人公。ならば舞台はロンドンかと思いきや「ヴィクトリア朝京都」というから驚きだ。ホームズはベーカー街ならぬ寺町通221Bに居を構え、四条通や鴨川べりをそぞろ歩く。「もともと僕が書いてきたのは妄想の中の京都。それがホームズのいる空想のロンドンと重なる気がした」と着想のきっかけを語る。 作中のホームズは深刻なスランプに陥っている。依頼から逃げ、嵐山の竹林に隠遁(いんとん)。そこに驚天動地の「非探偵小説的な冒険」が待ち受ける。「天から与えられた才能はどこに消えた?」と悩む探偵像は、作家自身の似姿でもある。「僕も10年以上ずっとスランプのような状態。もがいている自分を小説にできないかという思いでした」 2011年に体調を崩し、東京から故郷・奈良に戻った。「以来、小説を書くことにどうしても意識的になってしまう。納得のい