自分は、父のことをあまりよく知らない。 死に別れたわけでも海外へ赴任(ふにん)しているわけでもないのだが、父はいつも仕事に忙しく、家に帰って来てもあまり喋(しゃべ)らない。 だから、未だにどんな人間なのか、いまいちよく分からずにいる。 元々無口で、真面目なだけが取(と)り柄(え)なのだと、母は言う。 それを聞くたび、あまりよく知らないはずのこの人との、血の繋(つな)がりを意識する。……自分も、思いを口にするのが得意ではなく、周囲からは真面目と評されがちだから。 あまり嬉(うれ)しくない遺伝だと、いつも思ってきた。 真面目、堅物(カタブツ)、融通(ゆうづう)が利(き)かない――どれも、同年代の間ではあまり好まれない性質だ。 自分たちの年代なら、ノリが良くて面白くて、ちょっと不真面目なくらいの方が、ウケが良い。 自分だって、そんなことは理解している。 だが、間違っていると知りながら、わざとルー
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