物心ついた時から、父親に得体(えたい)の知れない“畏(おそ)れ”を抱(いだ)いている。 うちの父は決して“見るからに恐いタイプ”ではない。 むしろ他人に対して愛想(あいそう)の良い、社交的なタイプだ。 だけど、何となく抗(あらが)い難(がた)い。何となく、逆(さか)らえない何かを感じる。 母親に対しては普通に反発できるのに。 我ながら、不可解(ふかかい)な心理だと思う。 そんな父は、昔から人の言うことを聞かない。 と言うより、俺の(・・)話を聞いてくれない。 自分の中だけで勝手に物事を決めて、それを俺に押しつける。 俺の意見などまるで聞かず、父が良いと思ったものを無理矢理強要(きょうよう)してくる。 塾(じゅく)も、空手教室も、市が主催(しゅさい)のサマーキャンプも、皆(みんな)そうだった。 ひどい時は「どうだ?」とも訊(き)かず「申し込(こ)んでおいたぞ」の事後承諾(じごしょうだく)だ。