小学校に上がったか上がっていないかくらいの頃(ころ)、一度、プールの底に沈(しず)みかけたことがある。 夏休み、初めて行ったそのプールには、様々な形、様々な仕掛(しか)け、様々な深さのプールが取り揃(そろ)えられていた。 中には、子ども用の浅いプールと、大人用の深いプールが、真ん中で区切られているだけで、くっついているものもあった。 たくさんのプールにはしゃいで、あちこち入り回っていた俺は、大人たちが少し目を離(はな)したスキに、足の着(つ)かない大人用プールに、浮き輪も持たずに飛び込んでしまったのだ。 現在(いま)の俺なら「足が着くか着かないかくらい、ちゃんと見れば分かるだろうに」と思う。 だが、当時の俺には、そんな判断力も育っていなかった。 あるいは、興奮(こうふん)し過ぎて、冷静な判断ができなくなっていたのかも知れない。 あの時の、ヒヤリとするような感覚を、今でも覚(おぼ)えている。