「何を言っているんだ、こいつは…」転覆した漁船の仲間を懸命に捜す漁協幹部に、民放在京キー局の記者が放った「非常識すぎる一言」 第58寿和丸。2008年、太平洋上で碇泊中に突如として転覆し、17人もの犠牲者を出す事故を起こした中型漁船の名前である。 事故の直前まで平穏な時間を享受していたにも関わらず起きた突然の事故は、しかし調査が不十分なままに調査報告書が出され、原因が分からず「未解決」のまま時が流れた。 なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。 調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。 ジャーナリストの伊澤理江さんが、この忘れ去られた事件の真相を丹念な取材で描いた『黒い海 船は突然、深海へ消えた』から、事故が起こるまさにその瞬間を描いた、緊迫のシーンをお届けする。 鳴り止まない事務室の電話 現場海域に夕闇が迫っていた頃、福島県いわき市小名浜の酢屋商店は慌ただしさを