だめな人だとは知っていたが、ここまでだめだとはおもわなかった。志ん生本人が半生を語り下ろしたこの本を読みながら、わたしはあらためて、だめ人間の威力について考えざるをえない。この人はほんとうにだめだ。わたしは感動すら覚えながら、彼の半生を読み進めた。 志ん生が困るのは、落語だけは天才、というところで、そうでもなかったら、こんなめちゃくちゃなおっさんなどとてもまともに生きていけない。人がとことんまでだめを極めたとき、そこには聖性を帯びたなにかが立ち上がるが、戦前の志ん生には、ほんとうにだめな人にのみが持つうつくしいオーラ的ななにかが見えるような気がする。 なにより志ん生がひどいのは、誰の金であろうと平気で使い込んでしまう横領癖だ。たちがわるい。この人が「寄席をしくじった」「師匠をしくじった」という表現をするとき、たいていは使い込みか横領がばれて出入禁止になっている。父親のだいじにしていたキセル