下北沢の町を、小さな子どもを抱えて歩くECDを見たことがある。ECDが結婚して父親になったという話は聞いていたし、彼の著作(『失点・イン・ザ・パーク』)に書かれた厳しい生活の状況も知っていたので、その姿は何やら胸に沁みる光景であった。まさに「生活する者」の姿がそこにあったようにおもえたのだ。余計なお世話だが、赤ん坊を抱える手がややおぼつかず、落としたらどうしようと心配したことを覚えている。 ECDというのは80年代後半から長らく活動しているラッパーで、90年代にはメジャーレーベルからたくさんの音源をリリースしていたが、彼自身の著書によれば、メジャーとの契約が終了して以降は経済的に逼迫し、日中は仕事をしながら自主レーベルからのリリースやライブ活動というかたちを音楽をつづけていたという。アルコール依存症で体調を崩した時期もあったようだ。それでも、下北沢で見かけた彼と、彼の腕にしがみつく小さな子