これまでのブッダ理解を批判的に検証し、初期仏典の丁寧な読解からその先駆性を導き出す清水俊史さんの快著『ブッダという男――初期仏典を読みとく』(ちくま新書)。同書より、「第1章 ブッダとは何者だったのか」の一部を公開します。 およそ二五〇〇年前、北インドに「ブッダ」と呼ばれる一人の男が現れた。本名はパーリ語(以下P.)でゴータマ・シッダッタ(サンスクリット語[以下S.]で、ガウタマ・シッダールタ)という。シャカ族の王子として生まれ裕福な生活を送っていたが、このままでは輪廻の苦しみから逃れ得ないことを厭い出家した。そして、さまざまな修行の末、三五歳で悟りを得て「ブッダ」となった。その男の言葉には人を引き寄せる力があり、弟子や支援者が彼の周りに集まった。ブッダの教えに従い、多くの弟子たちが、悟りを得て輪廻を終極させた。その後、四五年にわたる伝道の末、ブッダは八〇歳で入滅した――。 我々がブッダと