名古屋郊外の大学校舎に向かう。リニアモーターカーは、子供の頃から、夢のまた夢だったが、何年も前にこの地で実現していた。新しい物好きではない私にはちょうどよい、またそれしかない交通手段だ。丘陵地を見晴らせるそれに乗り込む。 講義の前の短い間だが、途中下車したのが、「杁ヶ池公園」駅である。初めの3字は「いりがいけ」と読む。そこから、尾張の地域文字である「杁」を含む地名を探しながら歩くと、次第に目が覚めてきた。そこには当たり前のように、この地域文字が使われている【写真1】。 かつて江戸時代の初めに尾張では、「木偏」のこの字が用いられ始めている。一方、江戸幕府や他の藩では、同じ用水路や水門を意味する「いり」には土偏の「圦」という字を使っていた。「杁」は、それに先がけて現れた国字のようだ。「いり」という訓義をもつ「入」を旁に配した形声文字のようなやや珍しい構造となっている。尾張藩では、途中、幕府も公
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