ノルウェーで受け継がれてきた捕鯨の伝統が失われようとしている。その背景にあるものとは? 文=ロフ・スミス/写真=マーカス・ブリーズデール 日本と並ぶ捕鯨大国・ノルウェー。しかしこの国の捕鯨は斜陽産業だ。クジラが減ったからではない。ましてや捕鯨をめぐる複雑な政治背景のせいでもない。クジラ捕りになりたがる若者がいないのだ。ノルウェー北部の北極圏に位置するロフォーテン諸島で、捕鯨と人々の暮らしを取材した――。 「僕は現代のバイキングなんです」 厳しい寒さが肌を刺す冬の夕べ、港に帰る船の上で22歳のオッド・ヘルゲ・イサクセンはそう言って笑った。彼は、iPodでハードロックを聴きながら片手で舵をとり、空いた手で携帯電話を操作して、フェイスブックに近況を投稿する。 彼の暮らすロスト島で漁師を志願した若者は、この10年間でイサクセンを含めて二人しかいない。遠くの都会や沖合の油田に行けば、もっと安全で、安