妖艶な女性画で知られるチェコの画家アルフォンス・ミュシャは、外国支配からの祖国解放に情熱を注いだ運動家の顔も持っていた。愛国心を鼓舞する大作を制作したのは、首都プラハ西方ズビロフの城だった。 「この部屋で、チェコスロバキア共和国初代大統領となるマサリクをはじめ、民族独立を目指した政治活動家たちが秘密会合を重ねました。もちろんミュシャも加わりました」 人口2500人余の街、ズビロフ町の丘にあるズビロフ城の現城主で実業家のヤロスラフ・パハさん(54)が解説してくれた。 その奥の大広間が、ミュシャが1910年から18年かけて大作「スラブ叙事詩」を仕上げたアトリエだ。テニスコートが収まるほどの広さに加え、採光の良さがミュシャが選んだ決め手となった。 「スラブ叙事詩」はスラブ民族の誕生以来の歴史を、史実に神話や比喩を交えて描写した絵画20点からなる壮大な作品だ。1枚のサイズは最大幅8メートル、高さ6