かつて地中海の雄カルタゴがローマに滅ぼされてから200年が経とうとしていた。地中海は事実上ローマの海と化し、地中海のあらゆる貿易はローマ人によって独り占めされた。ローマ帝国の領土は拡張の一途をつづけ、属州から入って来る税は莫大なものになる。もはや敵対する勢力はこの地上になく、ローマ人はこの先何百年も安定と平和がつづくと信じていた。 侵略戦争は多くの奴隷を産み出していた。税を払えぬ属州民も奴隷にされ、ローマ国内には奴隷の数はあふれかえり、奴隷ひとりの価値は大きく下落した。そこには人間の尊厳などみじんもなかった。やがて巨大になり過ぎたローマは、賄賂と汚職などの悪癖が慢性化し、ローマ人の心を蝕んでいく。退廃的な雰囲気が支配し、刺激に飢えたローマ人は闘技場をたくさんつくり、そこで奴隷に殺し合いをさせて刹那的な享楽にうつつを抜かし始めるのである。剣をもって戦わされる奴隷はやがて剣闘士と呼ばれるように