池波作品の特徴として食事のシーンが多いことが挙げられる。「剣客商売」でも作中に登場する料理をまとめた『剣客商売包丁ごよみ』が出版されている。食事のシーンが登場人物の日常生活に実態感を持たせ、殺伐とした話をしている場面でも食事中が多く雰囲気を和らげる。 料理を取り上げたエッセイが多数あるほど食通として有名な池波さんは作中、小兵衛に「剣客をやめて料理人の修行したほうがよかった」と言わせている。料理人になりたいという願望は池波さんの本音なのかもしれない。 池波作品で安永時代の作品が多いのは田沼時代の自由な気風を好むという側面もあるが、現代の和食に通じる食文化がこの時代から整ってきたことも要因と考えられる。 作中の少し前の明和年間(1764年から1761年)に入ると人々に経済的な余裕が生まれ、料理屋も料亭が登場し、江戸では気軽に外食ができるようになった。そのため、作中の人物を食べ歩きをさせるために