なにかの拍子で余白を意識するようになった。いかなる立ち振る舞いにもそれ相応の自由度が必要であり、それにはスペースを設けておく必要があるのだった。さいきん文章を書けていないことを逃げていった二月のせいにしたいけれど、どうもそれは違うようだ。日々の生活の中のこまごまとした出来事に追いやられて、私には余白が足りなかった。作らなければならない。どうにかしなくちゃ、と会社の行き帰りに考えているがどうにもならなかった。なぜか。書かなかったからだ。 サイモン・シンの「フェルマーの最終定理」を読んだ。一九九四年、数学者のアンドリューワイルズはある難問を証明した。それに至るまでの長い歴史が丁寧に書かれていた。フェルマーの最終定理とは、「/この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない」という定理である。問題は小学生でも理解できる単純なものだ。しかしこれを証明することは大変難しかった。この定理を持ち出し