「自分の子供等が今の自分ぐらいの年配になる頃には、ことによるともう正月に雑煮を喰うという習慣もおおかた忘れられているかもしれない」。昭和10(1935)年のはじめに、こんな随筆を書いた寺田寅彦は、その年の大みそかに亡くなる。57歳だった。 ▼今年も寺田の著作の復刊が相次いだ。「天災は忘れた頃にやって来る」。著作に記述はなく、弟子に語ったとされる名言が、東日本大震災の発生以来、再び脚光を浴びているからだ。 ▼寺田は、文明の力を過信して自然を侮り防災を怠る現代の日本人に、強い警告を発しているだけではない。物理学者の池内了(さとる)さんによると、クモの糸を人工的に作る研究など、今注目されている技術のアイデアをすでに持っていた。 ▼そんな寺田に、「半分風邪を引いていると風邪を引かぬ話」と題した随筆がある。流感、今で言うインフルエンザに早めにかかった人の方が悪性になりにくい。その経験則を外交問題にあ