女性の立ち姿のヌードを3つ並べて異なるポーズを描き、《智・感・情》というタイトルをつけた3枚1組の絵画。古今東西の美術作品を眺めてきた筆者のささやかな経験の中では、ギリシャ神話の三美神を1枚に描いた作品を目にしたことはあるが、3枚にヌードを描き分けて一つの作品にした類例を見た記憶がない。とにかく特殊。学生の頃から何度か見て記憶の底に焼き付いていた。黒田清輝(1866~1924年)の作品だ。 東京国立博物館平成館で開催中の特別展「生誕150年 黒田清輝─日本近代絵画の巨匠」の会場でこの作品と久しぶりの再会を、と見に行ったら、裸体画の章を割り当てた一画があったのに、そこで《智・感・情》は発見できなかった。「出品されているはずなのになぜだろう」と頭の中に疑問符を浮かべながら歩を進めると、最後の展示室の主役としてトリを飾るように壁に掛かっていた。展覧会の企画者も《智・感・情》を特別な存在と捉えてい