四季を味わい、自然に親しんできた日本人。古きよき日本映画のフィルムには、何げない雨の風景ひとつにも徹底的にこだわった映画人たちの技と心が焼きつけられています。邦画編では、日本を代表する名監督の作品から、雨の名場面を紹介します。 映画という虚構の世界を生かし、現実の雨をはるかに超えるドラマチックな雨の名場面をつくりだしたのが黒澤明監督です。ベネチア映画祭で金獅子賞を受け、日本映画のすばらしさを世界に知らしめた「羅生門」(50年)には、白黒画面のコントラストをより際立たせるため、墨汁を混ぜた雨を降らせたという逸話があります。 また、世界中の映画人に大きな影響を与えつづけている「七人の侍」(54年)には、地面に突き刺さるような激しい雨を撮るため、水より重い砂糖湯を降らせたり、小道具係が苦心して特製の雨降り装置をあつらえたりしたというエピソードが残されています。ラストの雨中の合戦場面は、雪が残る厳