ヒップホップ、ラップには「男らしさ」が重んじられてきた歴史が、現実としてある。しかし、そうした価値観に変化が少しずつ訪れている。今回のテーマは、ヘテロ男性以外のアーティストに焦点をあてた、現在のラップシーンについて。 世界の音楽シーンに精通するライター渡辺志保と、多彩なカルチャーに横断的な視点を向ける荏開津広の対談企画も今回でひと区切り。1年にわたるこの連載の締めくくりに、ラップ音楽が持つ、希望につながる話を語っていただいた。 2020年最大のヒット曲“WAP”現象 ―まずは2020年の大ヒットソング“WAP”について伺います。この曲を聴いた最初の感想はいかがだったでしょう? 渡辺:“WAP”が大好きというのは大前提ですが、これほどコマーシャルヒットしたのは意外だったんですね。楽曲自体はキャッチーだし、シンプルなマイナー調のビートで中毒性はありますけど、それほど派手な曲ではないなというのが