夜盗のように僕らは遊ぶ ――cero、“あののか”より 写真:佛坂和之 新しいサウンドは、新しいライフ・スタイルから生まれる。 ceroのファースト『WORLD RECORD』は、まるで、都市を探索しているようなアルバムだ。本秀康が手掛けるアート・ワークは、構図ははちみつぱいの『センチメンタル通り』を、色調は鈴木慶一とムーンライダースの『火の玉ボーイ』を思い起こさせるが、物陰に怪物が潜み、目の前をペンギンが飛び去って行く様子が描き加えられたその絵は、かつての都市へのオマージュでもなければ、今、現在の都市のスケッチでもなく、ここで問題にされているのは、あくまで、架空の都市を浮かび上がらせる想像力である。あるいは、それは、ティン・パン・アレーとヒップホップとポスト・ロックをブリコラージュしたような、主役のサウンドを象徴化したものである。 個人的な話をすれば、ceroのファースト・インプレッショ
2018年1月に57歳で他界したラッパー、ECD。私小説家でもあり社会運動家でもあった彼の生涯を、『ルポ 川崎』が注目を集めたライター・磯部涼が描く。2000年代初頭からECDと親交を深め、併走してきた著者にしか描けない画期的評伝! その夜、ダンスフロアで ECDについて考えると思い出す光景がある。 高速道路の高架に空を覆われた通りの、雑居ビルの地下にある小さなクラブ。薄暗い店内はふたつのスペースに仕切られていて、左半分がバー、右半分がダンスフロアになっている。平日の深夜。イベントはお世辞にも盛り上がっているとは言い難い。バーでは出番を終えたDJたちが談笑している。フロアにいるのは僕だけで、DJブースにはトリを務めるECDの顔がライトに照らされてぼうっと浮かび上がっている。耳をつんざくような音量でストゥージズの「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」がかかる。明け方近くなっていい加減疲れていたが
(写真/岡崎果歩) ――十数年前、練マザファッカーのボスとしてダウンタウンのバラエティ番組『リンカーン』(TBS系)に出演し、“ディスる”という言葉を一般化させたラッパー、D.O。2018年初夏、大麻とコカインの所持・使用容疑で逮捕されたと報じられたが、実は今秋より服役することになっている。そして、このタイミングでなんと自伝『悪党の詩』(彩図社)を出版した。何かと“自粛”を求められる今、これは前代未聞である。収監直前の本人を、ベストセラー『ルポ 川崎』(小社刊)で知られる音楽ライターの磯部涼氏が直撃した。 *** 東京都練馬区・石神井公園内にある茶屋、豊島屋は大正時代より営業を続けているという。 昼間からここでおでんをつまみにビールを飲みつつ、100年前もたいして変わらないだろう景色を眺めていると、果たして今がいつなのかわからなくなってくる。 しかし、前に座っているD.Oにとっては貴重な時
音楽ライターの磯部涼さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇内梨沙さんにdodo『kill more it』と『im』を紹介していました。 (磯部涼)じゃあ、ちょっとまた移民とラップっていうのから離れて、今年の夏に急に人気が出た感じがすごく印象的だったのをかけたいんですけども。dodoっていうアーティストなんですが。 (宇多丸)dodoさん。前からいらっしゃいましたよね? (磯部涼)dodoは川崎の特集をやった時にも紹介したかなと思うんですけども。彼は川崎の中原区の出身なんですけど。BAD HOPも川崎出身なんですが、BAD HOPとは本当に正反対と言ってもいいような表現っていうか。いまでも自宅の子供部屋を「10goqstudio(天国スタジオ)」っていう自分のスタジオにしてて。その中である種悶々とした内容の曲ばかりを作ってきたんですけども。 それがいま、すごく
(宇多丸)はい。SATORUで『MAKA』をお聞きいただいております。ストレートなハードコアラップ。 (磯部涼)前回の移民とラップ特集でも静岡県磐田市のGREEN KIDSだったりとか、群馬県大泉町のFUJI TAITOっていう……彼らはそのブラジルにルーツを持つラッパーなんですけども。 (宇多丸)でも圧倒的に聞き取りやすいし、引き込まれる。 (磯部涼)ほかの曲も……この曲がいま結構バズってるんですけど。他の曲もいいんですけど。ちょっとかけられるのがギリギリこれだったかなっていうところもあって。 (宇多丸)ああ、これでもか……(笑)。 (磯部涼)この曲のタイトルはちなみに『まざふぁきびち』とか『丸まったポンプぶっさしたlady』とか。それで最近、『アナル舐めろmotherfucker』っていう曲だったりがかっこよかったですけども。 (宇多丸)ストレートだな。 (磯部涼)でも、そのストレート
音楽ライターの磯部涼さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇内梨沙さんになみちえ『おまえをにがす』とTAMURA KING『Tamura King』を紹介していました。 (宇多丸)じゃあ、さらに行きましょうか。 (磯部涼)では、これもまずは聞いてもらいましょうか。次も、さっきも「フィメールラッパーとくくらなくても」って言ったんですが、女性のラッパーですね。で、前回のテーマ「移民とラップ」の延長戦でも考えられるかなっていう曲です。なみちえで『おまえをにがす』です。 (宇多丸)はい。なみちえさんで『おまえをにがす』という……「逃がす」ってそういう仕掛けだったか! 言ってみれば、聞き違い的なことでしたね。 (磯部涼)なみちえさんはさっきの田島ハルコさんとも同じで、いわゆるヒップホップシーンで活動してるようなラッパーっていう感じではないんですけど。現役の東京芸大生で。
音楽ライターの磯部涼さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇内梨沙さんに田島ハルコ『ちふれGANG』と『¥70 rings』を紹介していました。 (宇多丸)今夜は音楽ライターの磯部涼さんをお呼びしてお送りしている不定期音楽企画、日本語ラップの最前線レポート・秋をお送りしております。ということでさっそくね、どんどん曲を行ってみましょう。 (磯部涼)まず1曲目は feat. ワッショイサンバで『ちふれGANG』。 田島ハルコ『ちふれGANG feat.ワッショイサンバ』 (宇多丸)お聞きいただいているのは田島ハルコ『ちふれGANG feat.ワッショイサンバ』ということなんですけどもこの「ちふれ」というワードに宇内さんがものすごく反応してて。 (宇内梨沙)まさかタイトルにそんな「ちふれ」が入っているとは……。 (宇多丸)ちふれとは? (宇内梨沙)いわゆる、とっても安
2 #移民とカルチャー【座談会】なぜ日本には移民文化が「存在しない」のか? ~戦後日本のアイデンティティ問題から考える【後編】 日本に移民文化は本当に存在しないのか? <前編はこちらから> ハン 「そもそも日本に移民文化は存在するのか?」という問いを投げましたが、私はいち在日コリアンとして、自分たちの文化を作れなかったという悔しさみたいなものがあるんです。そういう意味では、素朴にアメリカの黒人文化が羨ましかったりするところはあります。もちろんまったくないわけじゃないし、あと焼肉はあるかもしれないけど、自分にとってそこじゃないというか。 大和田 ハンさんがさっき言っていたように、歌謡曲の世界にもそういうアイデンティティを持つ人がいるということは、多くの人がなんとなくわかっていると思うんです。それは今まで表立って出てきませんでしたが、逆に言うと、今から在日というアイデンティティを軸としたカテゴ
1 #移民とカルチャー【座談会】なぜ日本には移民文化が「存在しない」のか? ~戦後日本のアイデンティティ問題から考える【前編】 世界的に排外主義やポピュリズムの機運が高まりを見せる2019年の今、移民というイシューは様々な形で浮上している。政治的には極めて緊迫した状況が続く一方、文化的には移民(や移民のルーツを持つ)作家の生み出すアート表現や、彼らとのクロスオーヴァーで創出される表現が幾つもの新しい扉を押し開いている。例えばアメリカのポップ・ミュージックに目を向ければ、ここ数年はヒスパニック系の急激な人口増加に伴い「ラテン・レボリューション」とも呼ばれるラテン・ミュージックのブームが巻き起こっているし、2010年代のポップとなったラップ/ヒップホップは当然ながらアフリカ系アメリカ人が中心となった音楽だ。映画の世界ではキュアロン、デル・トロ、イニャリトゥといったメキシコ出身の監督がハリウッド
「オレらの曲だけReplay/ここじゃほかは響かねぇ」(“Nowadays”より) 東武鉄道小泉線・西小泉駅を出ると、前を向けないほど強く冷たい風が吹き付けてきた。冬、ユーラシア大陸から日本海を越えてやってくる季節風は、日本列島の背骨である山脈にぶつかり、上昇気流となる。新潟側に大雪を降らせて蒸気を失うと、乾燥した空気が反対の群馬側に吹き下ろす。いわゆる上州のからっ風だ。堪らず戻った駅舎は、外の殺風景さとは反対に鮮やかな緑と黄で彩られている。そのふたつの色は、他でもないブラジルの国旗をイメージしたものである。 ここ、群馬県邑楽郡大泉町は、比率で言うと日本で最もブラジル人口の多い町だ。1990年の改正入管法施行で増加した南米からの移民は、スバルやパナソニックを始め工場の多い大泉町にも流入。そして、時が経った。今や移民2世も成長し、彼らにとってはブラジルのイメージとはかけ離れた同町が故郷となっ
2018年のアドベントの夕方、ある地方都市の古びた団地の道端で日系ブラジル人4世の若者たちと缶ビールを飲んでいた時のこと。話題がラップ・ミュージックに移り、ひとりの青年がシックスナインが好きだと言ったので、「どうなっちゃうんですかねぇ」と、最高で終身刑もあり得るという彼の裁判について振ると、青年が「いやぁ、伝説ですよ」と呟いた、その実感のこもった響きが忘れられない。 選出していないアーティストの話を総評で書くのもどうかと思うが、僕を始めとして多くのジャーナリストやメディアが取るに足らないものだと考えているシックスナインのようなアーティストも、若者にとっては同時代の神話的存在なのだ。その観点からすると、近年のラップ・ミュージックに対して繰り返し忠告される、ゴシップと音楽を分けろという誠実な意見も簡単には頷けなくなってしまう。いや、シックスナインも、あるいはXXXテンタシオンなども、ゴシップと
2018.11.09 Fri Sponsored by 『NEWTOWN 2018』『SURVIBIA!!』 Part.1:ふたつの「川崎」ーー変容する南部、侵犯する北部 「川崎」はふたつの顔を持っている。その地名を聞いたときに、ある人は工場地帯を、またある人はニュータウンという相反する光景を思い浮かべるだろう。もしくはそれらは、刺激的だが治安が悪い土地と、平穏だが退屈な土地というイメージに置き換えられるかもしれない。そして、そういったふたつの側面は、東京都と横浜市に挟まれた細長い形をした7区からなる市の「南部」と「北部」とが、各々、担ってきたと言える。 2017年、神奈川県川崎市の人口は150万人に達した。政令指定都市の規模としては全国7位だが、非県庁所在地という条件をつければ1位、更に増加率に関しては条件なしで1位に当たる。交通の便の良さを生かし、ベッドタウンとして一極集中が進む都心か
社会問題と社会運動の歴史がセットになった街・川崎。2015年に川崎市中1男子生徒殺害事件や川崎市簡易宿泊所火災といった事件・事故が立て続けに発生したこの街には何があるのだろうか。 その背景には「現代日本が抱える大きな問題がある」と言うのは、『ルポ 川崎』著者の磯部涼さんだ。「ここは、地獄か?」という刺激的な帯も目を引くこの本は、発売から半年以上経っても話題になり売れ続けている。 日本の大問題とは何か? 川崎の街から、問題の見えなさ、が見えてくる――。 (聞き手:望月優大) 光と闇が表裏一体 ――『ルポ 川崎』、おもしろく読ませていただきました。まず、取材の拠点となっている川崎区という街について教えていただけますでしょうか。 磯部 地元の不良少年たちは「川崎はしがらみばっかりでクソだ」と言いつつ、「人情味があって暖かい」とも表現します。それは決して矛盾しているわけではなく、どちらも同地が持っ
『ルポ 川崎』では、若きラップスターたちをこの街のキーとして、希望として描いている。なぜ川崎はラップの街になったのか? そもそも日本でラップはどう広がったのか? 若きラッパーたちはいま、何を歌っているのか? (聞き手:望月優大) ラッパーの歌詞に共感する若者たち ――現在、川崎はヒップホップの新しい聖地として盛り上がっています。世界中にヒップホップはありますが、ヒップホップやラップが川崎のような背景をもつ街に結びつく必然性のようなものがあったのでしょうか? 磯部 まず、ポップ・ミュージックの中心がラップ・ミュージックになったということだと思います。 昨年、調査会社のニールセン・ミュージックによって、ヒップホップ/R&Bがアメリカで初めて「もっともヒットしたジャンル」になったと発表されましたが、おっしゃる通り、最早、ラップのない国はないと言ってもいい。 さらに、このジャンルには「自分のことを
magazine - 2018.05.30 カベヤシュウト(odd eyes)インタヴュー(取材・文/磯部涼) photo by. 中野賢太 / 竹下慶(MOON FACE BOYS) / uuu uuu 〝odd eyes〟と白い盤面に黒いマーカーでなぐり書きされたCD-Rをもらったのは、90年の開店以来、京都のサブカルチャーを担ってきたCLUB METROでのことだった。それは、風営法問題で困窮していた関西のナイトクラブ・シーンを取材するために同地を頻繁に訪れていた2012年のある夜で、フロアは賑わっていたが何処となく緊張感が漂っていたように思う。ダンス・ビートが鳴り響く中、地元のレコード・ショップで働く友人から紹介された、ハードコア・パンク・バンドのヴォーカリストだという目付きの悪い青年は、顔をこちらにぐっと近付けるなり喋りまくり、音源を手渡し、次に見掛けた時には店の片隅で酔い潰れて
希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、ECDのサード・アルバム『ホームシック』。ゲストにはライターの磯部涼氏が登場です。 ●今月の名盤:ECD『ホームシック』 シーンきってのオールドスクーラー、ECDの3作目にしてエイベックス移籍後初のアルバム。TWIGYとYOU THE ROCK★をフィーチャーし、当時のアンダーグラウンドな日本語ラップ・シーンのアンセムとなった“MASS対CORE”など全10曲を収録。(bounce.com編集部) ブロンクス 今日はこのコーナー始まって以来のゲストを呼んじゃってます。ECDに詳しいライターの磯部涼
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※記事より一部引用。 ■「軽いノリの扱い」 ヒップホップは70年代、米国の黒人やヒスパニックの若者らが開くパーティーから生まれた。今やロックやR&Bなどと並ぶ一大ジャンルだ。音楽ライターの磯部涼さんによると、80年代に日本に流入して以降、たびたびブームを起こしてきた。ここ数年もラップバトルのテレビ番組が人気。磯部さんは「今はやりの『クールな音楽』程度の軽いノリで扱っているのが透けて見える。どの政党が作ろうが、批判されて当然だ」と話す。 ただ、ヒップホップには、リズミカルに韻を踏むラップでどれだけ巧みに相手を罵倒するかを競ってきた歴史がある。それが体制批判につながることもあれば、女性やマイノリティーに矛先が向かうこともある。磯部さんはそうした点を踏まえ「『ヒップホップは反体制的文化だから、体制側が利用するのは駄目』『マイノリティーの音楽を、不寛容な党が使うのはおかしい』という批判はさすがに無
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