ホアキン・フェニックスのオスカー級の演技で完璧に表現されたジョーカーは、DCコミックスの設定で飾り立てずとも十分魅力的だ。本作がバットマンユニバース作品としても秀逸であることは、美味しいケーキの上にさらに砂糖菓子が乗っているような二重の喜びだ。本作を観終わった後は、誰しも私と同様の気持ちを『ジョーカー』に対して抱くことだろう。心が落ち着かず、今後数年にわたってでも本作について議論を交わしたい、という気持ちだ。 トッド・フィリップス監督は、『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』、『時計じかけのオレンジ』、そして『狼たちの午後』といった70年代・80年代の名作映画の様式と精神を用いて、ゴッサムシティをあの時代の地獄のようなニューヨークシティの似姿として描いている。当時のニューヨーク市は犯罪、腐敗、恐慌、そして数々の社会問題が蔓延しており、”フィアーシティ(恐怖の街)”とあだ名されて