コロナが完全に消し去った「一億総中流」の幻想 「一億総中流」――。いまとなっては、なんとも懐かしい響きの言葉である。 かつては存在していた、少なくとも存在すると信じられていたが、すでに失われ、あるいは誰も信じなくなっている。豊かさも生活のあり方もさまざまな日本人の全体を、強引にひとつに結びつける言葉という意味では、アジア・太平洋戦争中の「一億火の玉」にもたとえられようか。 1980年代から始まった格差拡大は、日本の社会のあちこちに巨大な分断をつくりだし、これを形容する言葉は「格差社会」に取って代わられた。そして「格差社会」の地点に立って過去をふりかえれば、いまよりは小さかったとはいえ、また気づかれにくかったとはいえ、当時の日本にも大きな格差があったことがよくみえてくる。 そして日本では2020年1月から始まった新型コロナ感染症の蔓延は、「一億総中流」の幻想を、最終的に消し去ったといっていい