いまや日本映画界に欠かせない存在となった余貴美子(よきみこ・61)は、ふとしたきっかけから「客家」のルーツを意識するようになった。その時、常に「何者」かを演じ続けてきた自らに、初めて「芯」のようなものを感じたという。希代の演技派女優の心に息づく“流浪の民“の記憶を辿った。ジャーナリスト野嶋剛氏がレポートする。 * * * 小指の爪を、やたらに長く伸ばしていた。 自分には意味のわからない漢詩を、いつも書き記していた。 中国武術をやっていて、動きがやけに俊敏だった。 新聞で中国のニュースがあると、赤丸をつけて切り抜いていた。 孫文の立派な写真が、部屋に飾られていた。 中国から台湾へ、台湾から日本へ渡った「客家」(*注1)の血を引く女優、余貴美子が、幼い日の記憶に刻んだ祖父の姿だ。 【*注1/漢民族の一民族とされる。中華文明が勃興した黄河中流周辺地域をルーツとし、その後、戦禍に翻弄されながら南方
![余貴美子 「日本や台湾、中国というより、私は客家」](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/f8f22b78429190cf35bf272803c55ea3ddf53adc/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fwww.news-postseven.com%2Fuploads%2F2017%2F06%2Fyokimiko.jpg)