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ブックマーク / daen.hatenablog.jp (7)

  • 私はなぜ原子力を選択するか / バーナード・L・コーエン - 誰が得するんだよこの書評

    放射線学者が「火力発電の大気汚染のリスクが原発のリスクを上回るので、原子力はマシ」と主張する。実際にアメリカの火力発電は数万人単位の死者を出すほど深刻で、マックス・カーボンも同様の指摘をしています。 タイトルからして原発推進派なのがバレバレでうさんくさいと思われるかもしれませんが、原発事故のプロセスもかなり正確に想定していて、お花畑的な原発安全論ではありません。たとえば水素爆発のリスクについては、それは起こるものと想定して、さらにそれが致命的な「格納容器の破壊」にまで至らないと書いてあります。 研究者の間では、事故で発生する可能性がある水素がすべて一度に爆発するとしても、スリーマイル島事故の場合を含めて、その力はほとんどの型の格納容器を破壊するほど強力ではないであろう、ということで意見が一致しているようである。さらに、ほぼすべての状況で、水素は徐々に発生し、火花の発生源がいくつかあるため

    私はなぜ原子力を選択するか / バーナード・L・コーエン - 誰が得するんだよこの書評
  • あなたのための物語 / 長谷敏司 - 誰が得するんだよこの書評

    心を根こそぎ奪われた。すごいよ。すごすぎるよ。グレッグ・イーガン「順列都市」に匹敵する面白さ。テッド・チャンも納得の一冊のはず。もうとりあえず読んでくれ。こういう作品が出てくるからSFはやめられない。脳のニューロンの状態を記述できる言語ができて、ありとあらゆる人間の精神を記述(再生)できるようになった話です。そうしたテクノロジーと、死すべき人間が向かい合ったら、これはもう面白い話にならざるを得ない。 死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない。 夏目漱石「行人」 他人事ではありません。あなたは死ぬ。僕も死ぬ。どんなに足掻いても死ぬ。もう21世紀だっていうのに、相変わらず、死ぬ。 いやあ、しかし、なんだ。死ぬのか。これを書いている今、まったく現実感がないのだけれども、まあ、死ぬのだろう。脳細胞が壊れ、人間性の源であるニューロンの活動も停止し、感覚は遮断

    あなたのための物語 / 長谷敏司 - 誰が得するんだよこの書評
    banraidou
    banraidou 2009/10/09
  • 「こんなのSFじゃない!」という発言がいかにウザいか - 誰が得するんだよこの書評

    「こんなのSFじゃない!」「じゃあ、どこからどこまでがSFなんだよ」というのは、不毛な会話の典型例です。そもそも「どこからどこまでがSFか」という考え方が不毛です。「どこからどこまでが文学か」と同じくらい不毛です。こういう無駄に深く掘り下げられる議論はスルーすべきなんですが、まあ、自分なりに考えるところがあるのでちょっと書いときます。興味ない方はさらっと聞き流してください。 まず「どこからどこまでがSFか」という捉え方が間違ってます。見方によってはありとあらゆることがSFです。なんらかの科学技術の使用が認められるのなら、一応サイエンスなフィクションです。というわけでそのSF成分が濃いか薄いかで判断するのが吉なんじゃないでしょうか(このSF成分=センス・オブ・ワンダーの定義についてはこのエントリ参照)。 というわけでSFを3段階に分けてみました。 A:ファンタジーのレベル SF成分(テクノロ

    「こんなのSFじゃない!」という発言がいかにウザいか - 誰が得するんだよこの書評
    banraidou
    banraidou 2009/08/16
  • ラギッド・ガール 廃園の天使II / 飛浩隆 - 誰が得するんだよこの書評

    読み終わるのがもったいないほど素晴らしかった。もしこのを読んでる瞬間を永遠に引き伸ばすことができるとしたら「ハイよろこんで!」と即答してしまいかねない。それほどの傑作。飛浩隆が持つ、生と死への感性は常軌を逸しているなあ。仮想現実や人工生命、精神の電子コピーというネタはもう定番だからと油断していたら、やられた。哲学書に匹敵する想像力と、静謐な文章と、人間臭い自虐的でドロドロとしたストーリー。およそこの組み合わせに抗えるSFファンはいないだろう。 以下ネタバレ。 意識の質とは この短編集の基アイディアは「意識とは情報の代謝である」ということです。 代謝(たいしゃ)とは、生体内の化学反応のことで、体外から取り入れた物質から他の物質を合成したり、エネルギーを得たりする。 代謝 - Wikipedia 要するに、情報をなんらかのやり方でインプットし、それをあるやり方で別の情報にアウトプットする

    ラギッド・ガール 廃園の天使II / 飛浩隆 - 誰が得するんだよこの書評
    banraidou
    banraidou 2009/07/10
  • 現代SFで学ぶ相対主義 - 誰が得するんだよこの書評

    ものものしいタイトルですが内容はいたってふつうの現代思想です。2007年のSF界を代表する作品・伊藤計劃「虐殺器官」をネタにしてみました。「虐殺器官」をまだ読んでない人、また読んでもイマイチ楽しめなかった人のための思想的ガイドにもなっています。人によっては毒ですが、思想なんてものは多かれ少なかれみんな毒なので気にせず読んでください。 「みんな違ってみんないい」は嘘 相対主義って「みんな違ってみんないい」ってことでしょ? 違います。この言葉はむしろ「自分は色んな立場にたって物事を考えられますよ」というアピールであって、対立するグループの調停のために使われるリップサービスです。政治的な駆け引きのための思想的小道具です。 たしかに安定した社会では「みんな違ってみんないい」は真理となりえます。多様な価値観が共存できるだけの体力が社会にあるからです。しかしひとたび紛争地帯は貧困地域に場所を移すと話は

    現代SFで学ぶ相対主義 - 誰が得するんだよこの書評
  • ハーモニー / 伊藤計劃 - 誰が得するんだよこの書評

    「近代」の前提をぶっ壊した超問題作。 間違いなく2008年ベストの小説。その価値観のちゃぶ台返しっぷりには脱帽する。 クラーク「幼年期の終わり」やエヴァンゲリオンの人類補完計画など、人類の進化というテーマはSFではおなじみだが、これほど大胆かつ精密にこのテーマを扱った作品はないんじゃないか。 脳科学とナノテクノロジーの発達が心理学を変え、そして社会学や経済学をの前提をぶっ壊し、ついには世界を一変させてしまう……。そのプロセスは、単なる思考実験にとどまらない激烈なインパクトを持っている。 ストーリーがやや弱いとか、パロディが寒いとか、そんなささいな欠点は気にならない。圧倒的な面白さがある。 以下ネタバレ。 はたして人類は幸福になったのか? 【幸福を認識できるのか】 かなり疑問だ。そもそも意識を刈り取ることが「幸福」であることの根拠はミァハの「意識が無かったときは恍惚だった」という発言である。

    ハーモニー / 伊藤計劃 - 誰が得するんだよこの書評
  • Self-Reference ENGINE / 円城塔 - 誰が得するんだよこの書評

    2007年で一番面白かったSFです。簡単にあらすじを紹介すると、それまでひとつだった時空がてんでばらばらにはじけ飛んだ未曾有の危機「イベント」を前後して、人間やその他の知性体があれやこれやと奮闘するドタバタ喜劇、といったところでしょうか。喜劇というと語弊があるかもしれません。なぜなら彼らはいたって真面目に宇宙と世界の謎について探求しているのですから。しかし、その内容のあまりの突飛さ、常識の範疇を軽く超えるスケールのでかさを前にしては、思わず笑うしかありません。「高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というのはかのクラークの言ですが、高度に発達したSFはギャグと見分けがつかない、と書をもって実感しました。 しかもただ単に大ぼらを吹いて読者を煙に巻いているのかと思えばそんなことはなく、グレッグ・イーガンやテッド・チャンにも通じる論理の深さと鋭さを併せ持っています。とはいえそれが完璧

    Self-Reference ENGINE / 円城塔 - 誰が得するんだよこの書評
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