本書はフランスの歴史家、マルク・ブロックについての評伝である。ブロックは、フェーヴルとともに「社会経済史年報」(1929年)を刊行しはじめた。そのためアナール(年報)学派と呼ばれるのだが、この学派の特質は、歴史を長期的な持続の相において見る視点をもたらしたことにある。本書は内容の密度が濃いものだが、講演の草稿にもとづくためわかりやすく、学問的な論文では省かれるような逸話が豊富にあって興味深い。私はさまざまなことを考えさせられた。ここで述べるのはその一端にすぎない。 ブロックの『フランス農村史の基本性格』(1931年)や『封建社会』(1940年)は、日本ではほぼ同時代的に読まれていた。それは日本のマルクス主義者の間で「封建論争」がなされていたからである。ブロック自身も日本人(朝河貫一など)の研究を参照していた。しかし、この時期、彼の仕事は特にアナール学派として意識されていたわけではない。 日