グレツキの評伝は知らないが、この事実が彼の人生に与えた影響は、小さくなかったのではないか。「悲歌のシンフォニー」と呼ばれるこの曲を聴いて、一番気になったのは、まずそのこと。音楽を聴いて、作曲者の伝記的なストーリーを気にする聞き方はどうかと思うが、この事実を知ってしまった以上、気にしないわけにはいかなかった。それほど、この曲は変わっている。 全体は、3楽章で構成されているので、順番に聞いてゆこう。まず第1楽章、コントラバス、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンの順番に腹に響くような低音で始まり、静かで緩やかな旋律が何十にも重なり音の帯が広がってゆく。私は第2次大戦の大型爆撃機の接近を連想した。分厚くなった合奏が大きく盛り上がり、13分経過した頃に、鐘の音のようなピアノに導かれてソプラノの独唱が入ってくる。 私の愛しい、選ばれた息子よ、 自分の傷を母と分かち合いたまえ。 愛しい息子よ、私はあなたをこ