むかしむかし翁(じじ)は山へ柴刈(しばかり)に、 媼(ばば)は洗濯の河にて、 拾いし桃実(もも)の裏(うち)より 生れ出(い)でたる桃太郎、 猿雉子(きじ)犬を引率(いんぞつ)[#ルビの「いんぞつ」はママ]して この鬼ヶ島に攻来(せめきた)り、 累世(よよ)の珍宝(たから)を分捕(ぶんどり)なし、 勝矜(かちほこ)らせて 還(かえ)せし事、 この島末代までの 恥辱なり、 あわれ願わくは 武勇勝(すぐ)れたる鬼のあれかし、 其(その)力を藉(かり)てなりとも この遺恨(うらみ)霽(はら)さばやと、 時の王鬼(おうおに)島中に触(ふれ)を下し、 誰(たれ)にてもあれ日本を征伐し、 桃太郎奴(め)が若衆首(わかしゅくび)と、 分捕られたる珍宝(たから)を携え還らんものは、 此(この)島の王となすべしとありければ、 血気に逸(はや)る若鬼輩(ども)、 ひこひこと額の角を蠢(うごめ)かし、 我功名せ