アメリカの軍事史家デーヴ・グロスマンは人間が他の人間を殺すことに対して持つ抵抗感、特に近距離で殺すことへの抵抗感の強さを例証するものとして、次のようなケースを紹介している。 (……)アメリカ軍の中隊指揮官ウィリス大尉は、部隊を率いてベトナムの川床を歩いていたとき、だしぬけに北ベトナムの一兵士と遭遇した。 ウィリスは兵士に並び、M16で相手の胸を狙った。五フィートと離れていなかった。兵士のAK47もまっすぐウィリスに向けられている。 大尉は激しく首をふった。 北ベトナム軍の兵士も同じように激しく首をふった。 休戦協定、停戦命令、紳士協定、それとも取引か……兵士はそろそろとあとじさって闇に消えてゆき、ウィリスはそのまま進み続けた。 (『戦争における「人殺し」の心理学、ちくま学芸文庫、210ページ) もちろん、すべての兵士が殺人を選択せずにすむわけではない。 (……)あるベトナム帰還兵は、若い北