広島原爆の悲劇を描いた小説「黒い雨」で知られる作家井伏鱒二(1898〜1993年)が、戦友の元新聞記者に宛てた晩年の書簡50通が、金沢市内の元記者の遺族方で見つかった。元記者は原発に勤務した長男を舌がんで失い、原発の危険性を告発する手記を書いて井伏に託したが、その雑誌掲載に尽力した経緯が含まれている。原発に懐疑の目を向けていた井伏を知る資料になりそうだ。 (松岡等) 一九七七(昭和五十二)年八月〜八八年十二月の手紙十八通とはがき三十二通。元記者は国民新聞(東京新聞の前身)から、後に北日本新聞(富山市)の編集局長などを務めた松本直治さん(一九九五年、八十三歳で死去)。井伏は松本さんや作家海音寺潮五郎らとともに陸軍徴用の報道班員としてマレー半島に派遣され、戦後も交流が続いた。 手紙のやりとりは、松本さんの長男が舌がんで死亡したのがきっかけ。長男は北陸電力の社員で、出向先の東海、敦賀両原発で安全