ロシアによるウクライナ侵攻は、インド太平洋地域の地経学にどのような影響を及ぼすことになるのか。本稿では、侵攻前の段階から、大筋合意した包括投資協定(Comprehensive Agreement on Investment、以下、CAI)の凍結などの形で既に変わりつつあった欧州連合(EU)と中国の関係へのウクライナ侵攻の影響、日本への示唆について考察した。 ロシアの軍事侵攻は今も続き、西側の制裁措置とロシアの対抗措置も拡大し続けている。本稿の評価は、あくまでも暫定的なものであり、EUの政策を主に経済面から分析する研究者の視点からの考察であることを予めお断りしたい。 1.EU・中国関係の変遷 EUと中国の関係は、過去20年余り、とりわけ、中国が飛躍の機会とし、EUが複合危機に見舞われるきっかけとなった世界金融危機以降、大きく変化してきた[i]。 経済の規模は、中国が世界貿易機関(WTO)に加