JUGEMテーマ:時代小説 まぶたを上げると、世界は一面朱金の色に変じていた。西の地平に沈む間際の太陽の色。一瞬、太陽が落ちてきたのかと本気で思った。 無意識に太陽を探して空を仰ぐ。見上げた空は、暗かった。だがそれは太陽が落ちたからではない。まるで墨が溶けて空ににじみ出したかのように、黒いものが空を覆っている。下の方は濃く黒く、上の方へ行くに従ってだんだんと薄くなるそれの向こうに、淡い春の青空と、白金に光る太陽が透けて見えた。 そして、その空をひらひらと朱く、小さな羽虫のように舞い飛ぶものがある。いくつもいくつも、空を彩る模様のように無数に頭上を飛び回るそれは――火の粉。辺り一面を覆う炎が吹き上げる、朱色の炎の欠片。 ――銀座の町が、燃えている。 青流 ( せいる ) は悲鳴を上げて飛び起きようとした。だが、身体が上手く動かない。 「……何てこった。家が……」 呆然としたような呟きが小さ